は鼬《いたち》のように噛みつく植物、牡蠣《かき》が岩にくっつくように、根で以て執拗《しつよう》に土と他の植物の根とに、からみ付いている。クイクイを片付けてから、野生のライムにかかる。棘《とげ》と、弾力ある吸盤とに、大分素手を傷められた。
 十時半、ヴェランダから法螺貝《ブウ》が響く。昼食――冷肉・木犀果《アヴォガドオ・ペア》・ビスケット・赤葡萄酒《あかぶどうしゅ》。
 食後、詩を纏《まと》めようとしたが、巧《うま》く行かぬ。銀笛《フラジオレット》を吹く。一時から又外へ出てヴァイトリンガ河岸への径《みち》を開きにかかる。斧を手に、独りで密林にはいって行く。頭上は、重なり合う巨木、巨木。其の葉の隙から時々白く、殆ど銀の斑点《はんてん》の如く光って見える空。地上にも所々倒れた巨木が道を拒んでいる。攀上《よじのぼ》り、垂下り、絡みつき、輪索《わな》を作る蔦葛《つたかずら》類の氾濫《はんらん》。総《ふさ》状に盛上る蘭類。毒々しい触手を伸ばした羊歯《しだ》類。巨大な白星海芋。汁気の多い稚木《わかぎ》の茎は、斧の一振でサクリと気持よく切れるが、しなやかな古枝は中々巧く切れない。
 静かだ。私の振る斧
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