その本当の姿を現すのだろうか? 其の頃スティヴンスンは、父と衝突したあとで、何時も決って、この不快な疑問を有《も》たねばならなかった。

 スティヴンスンがファニイと結婚する意志を明かにした時、父子の間は再び嶮《けわ》しいものとなった。トマス・スティヴンスン氏にとっては、ファニィが米国人であり、子持であり、年上であることよりも、実際はどうあろうと兎に角彼女が戸籍の上で現在オスボーン夫人であることが第一の難点だったのである。我儘《わがまま》な一人息子は、年歯《とし》三十にして初めて自活――それもファニイとその子供迄養う決心をして、英国を飛出した。父子の間は音信不通となった。一年の後、何千|哩《マイル》隔てた海と陸の彼方で、息子が五十|仙《セント》の昼食にも事欠きながら病と闘っていることを人伝《ひとづて》に聞いたトマス・スティヴンスン氏は、流石《さすが》に堪えられなくなって、救の手を差しのべた。ファニイは米国から未見の舅《しゅうと》に自分の写真を送り、書添えて言った。「実物よりもずっと良く撮れております故、決して此の通りとお思い下さいませぬよう。」
 スティヴンスンは妻と義子とを連れて英国
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