パと、白人達の政府《マロ》とを倒すであろうと期待しているのだ。無理もない。全く今の政府《マロ》はひどい。莫大《ばくだい》な(少くともポリネシアにしては)給料を貪《むさぼ》りながら、何一つ――全く完全に何一つ――しないでノラクラしている役人共ばかりだ。裁判所長《チーフ・ジャスティス》のツェダルクランツも個人としては厭《いや》な男ではないが、役人としては全く無能だ。政務長官のフォン・ピルザッハに至っては、事毎に島民の感情を害《そこな》ってばかりいる。税ばかり取立てて、道路一つ作らぬ。着任以来、土民に官を授けたことが一度もない。アピアの街に対しても、王に対しても、島に対しても、一文の金も出さぬ。彼等は、自分等がサモアにいること、又、サモア人というものがあり、やはり目と耳と若干の知能とを有《も》っているのだ、という事を忘れている。政務長官の為した唯一のこと、それは、自分の為に堂々たる官邸を建てることを提案し、既にそれに着手していることだ。しかも、ラウペパ王の住居は、その官邸の直ぐ向いの、島でも中流以下の、みすぼらしい建物(小舎?)なのである。
 先月の政府の人件費の内訳を見よ。

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