の島に於ける白人の生活と政策とに対する彼の非難は、アピアの白人達(英国人をも含めて)と彼との間に溝を作って行った。
 スティヴンスンは、故郷スコットランドの高地人《ハイランダァ》の氏族《クラン》制度に愛着をもっていた。サモアの族長制度も之に似た所がある。彼は、始めてマターファに会った時、その堂々たる体躯《たいく》と、威厳のある風貌とに、真の族長らしい魅力を見出した。
 マターファはアピアの西、七|哩《マイル》のマリエに住んでいる。彼は形の上の王ではなかったが、公認の王たるラウペパに比べて、より多くの人望と、より多くの部下と、より多くの王者らしさとを有《も》っていた。彼は、白人委員会の擁立する現在の政府に対して、曾て一度も反抗的な態度を執ったことがない。白人官吏が自ら納税を怠っている時でも、彼だけはちゃんと[#「ちゃんと」に傍点]納めたし、部下の犯罪があれば何時でも大人しく裁判所長《チーフ・ジャスティス》の召喚に応じた。にも拘《かか》わらず、何時の間にか、彼は現政府の一大敵国と見做《みな》され、恐れられ、憚《はばか》られ、憎まれるようになっていた。彼が秘かに弾薬を集めているなどと政府に密
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