行く。何か起るに違いない。生活の残渣《ざんさ》や夾雑物《きょうざつぶつ》を掃出して呉れる何かが起るに違いないという欣《よろこ》ばしい予感に、私の心は膨れていた。
 一時間もそうしていたろうか。
 やがて眼下の世界が一瞬にして相貌を変じた。色無き世界が忽《たちま》ちにして、溢《あふ》れるばかりの色彩に輝き出した。此処からは見えない、東の巌鼻《いわはな》の向うから陽が出たのだ。何という魔術だろう! 今迄の灰色の世界は、今や、濡れ光るサフラン色、硫黄色、薔薇《ばら》色、丁子色、朱色、土耳古《トルコ》玉《だま》色、オレンジ色、群青、菫《すみれ》色――凡《すべ》て、繻子《しゅす》の光沢を帯びた・其等の・目も眩《くら》む色彩に染上げられた。金の花粉を漂わせた朝の空、森、岩、崖、芝地、椰子樹《やしじゅ》の下の村、紅いココア殻の山等の美しさ。
 一瞬の奇蹟を眼下に見ながら、私は、今こそ、私の中なる夜が遠く遁逃《とんとう》し去るのを快く感じていた。

 昂然《こうぜん》として、私は家に戻った。

   二十

 十二月三日の朝、スティヴンスンは何時もの通り三時間ばかり、「ウィア・オヴ・ハーミストン」を口
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