》て大嫌いだった・之からも好きにはなれまい(というのは、今、南海の我が乏しき書庫に其の作物が一冊も並んでいないからだが)あのワイマアルの宰相のことを、ひょいと思う。あの男は、少くともスウプのだしがら[#「だしがら」に傍点]ではない。いや、逆に、作品が彼のだしがら[#「だしがら」に傍点]なのだ。ああ! 俺の場合は、文学者としての名声が、不当にも、俺の人間的完成(もしくは未熟)を追越し過ぎたのだ。恐るべき危険だ。
 ここ迄考えて来て、妙な不安を覚える。今の考を徹底させれば、俺の従来の作品の凡《すべ》てを廃棄しなければならなくなるのではないか。之は絶望的な不安だ。今迄の俺の生活の絶対専制者「制作」よりも権威あるものが現れるということは。
 しかし一方、習《ならい》、性となった・あの文字を連ねることの霊妙な欣ばしさ、気に入った場面を描写することの楽しさが、自分を捨去るとは、ゆめゆめ思えない。執筆は何時迄も俺の生活の中心であろうし、又、そうあって差支えないのだ。けれども――いや、恐れることはない。俺には勇気がある筈だ。俺は俺の上に起った変化を懼《おそ》れずに迎えねば[#「迎えねば」は底本では「迎
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