午後の日盛りに私は独りでアピア街道を歩いていた。道からちらちらと白い炎が立っていた。眩《まぶ》しかった。街道の果迄見渡しても人一人見えなかった。道の右側は、甘蔗畑《かんしょばたけ》が緑の緩やかな起伏を見せてずっと北迄続き、その果には、燃上る濃藍色《のうらんしょく》の太平洋が雲母末《うんもまつ》のような小皺《こじわ》を畳みながら、円く大きく膨れ上っていた。青焔《せいえん》に揺れる大海原が瑠璃色《るりいろ》の空と続くあたりは、金粉を交えた水蒸気にぼかされて白く霞んで見えた。道の左側には、巨大な羊歯《しだ》族の峡谷を距《へだ》てて、ぎらぎらした豊かな緑の氾濫《はんらん》の上に、タファ山の頂であろうか、突兀《とっこつ》たる菫色《すみれいろ》の稜線《りょうせん》が眩しい靄《もや》の中から覗いている。静かだった。甘蔗の葉摺《はずれ》の外、何も聞えなかった。私は自分の短い影を見ながら歩いていた。かなり長いこと、歩いた。ふと、妙なことが起った。私が、私に聞いたのだ。俺は誰だと。名前なんか符号に過ぎない。一体、お前は何者だ? この熱帯の白い道に痩《や》せ衰えた影を落して、とぼとぼと歩み行くお前は? 
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