を呼び起したんだよ。もう大丈夫。豚盗人は、魔物がつかまえて呉れるから。」
三十分後、ラファエレは心配そうな顔をして、又、我々の所へ来る。さっきの魔物の話は本当かと念を押す。
「本当だよ。盗《と》った男が今晩|寐《ね》ると、魔物も其処へ寐に行くんだよ。じきに其の男は病気になるだろうよ。豚を盗った酬《むくい》さ。」
幽霊信者の巨漢は益々不安の面持になる。彼が犯人とは思わないが、犯人を知っていることだけは確かのようだ。そして、恐らく今晩あたり其の仔豚の饗宴《きょうえん》にあずかるであろうことも。但し、ラファエレにとって、それは余り楽しい食事ではなくなるだろう。
此の間、森の中で思い付いた例の物語、どうやら頭の中で大分|醗酵《はっこう》して来たようだ。題は、「ウルファヌアの高原林」とつけようかと思う。ウルは森。ファヌアは土地。美しいサモア語だ。之を作品中の島の名前に使うつもり。未だ書かない作品中の色々な場面が、紙芝居の絵のように次から次へと現れて来て仕方がない。非常に良い叙事詩になるかも知れぬ。実に下らない甘ったるいメロドラマに堕する危険も多分にありそうだ。何か電気でも孕《はら》んだよ
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