いと、しかし今度は確かに眼が覚めた。そうだ。アピアだぞ、此処は。――すると、鈍い光に照らされた往来の白い埃《ほこり》や、自分の靴の汚れにもハッキリ気が付いた。ここはアピア市で、自分は今フンク氏の家からホテル迄歩いて行く途中で、…………と、其処で、やっと完全に私は意識を取戻したのだ。
大脳の組織の何処かに間隙でも出来ていたような気がする。酔っただけで倒れたのではないような気がする。
或いは、こんな変な事を詳しく書留めて置こうとすること自体が、既に幾分病的なのかも知れない。
八月×日
医者に執筆を禁じられた。全然よす訳には行かないが、近頃は毎朝二三時間畑で過すことにしている。之は大変工合が良いようだ。ココア栽培で一日十|磅《ポンド》も稼げれば、文学なんか他人《ひと》に呉れてやってもいいんだが。
うち[#「うち」に傍点]の畑でとれるもの――キャベツ、トマト、アスパラガス、豌豆《えんどう》、オレンジ、パイナップル、グースベリィ、コール・ラビ、バーバディン、等。
「セント・アイヴス」も、そう悪い出来とは思わないが、兎角、難航だ。目下、オルムのヒンドスタン史を読んでいるが、大変面白い。十
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