こ》ヘ来た頃、召使の給料を六|志《シリング》減じたら、其の男は直ぐに仕事を止めた。しかし、今では、彼等は私を酋長と見做《みな》しているらしい。給金を減らされたのは、ティアという老人で、サモア料理(召使達の為の)のコックだが、実に完璧《かんぺき》といっていい位見事な風貌の持主だ。昔、南海に武名を轟《とどろ》かしたサモア戦士の典型と思われる体躯《たいく》と容貌だ。しかも、之が、箸《はし》にも棒にもかからない山師であろうとは!

十二月×日
 快晴、恐ろしく暑い。監獄の酋長達に招かれ、午後、灼《や》けるような四|哩《マイル》半を騎乗、獄中の宴に赴く。先日の返礼の意味か? 彼等は自分達のウラ[#「ウラ」に傍点](深紅の種子を沢山緒に通した頸飾)を外して私の頸に掛けて呉れ、「我等の唯一の友」と私を呼ぶ。獄中のものとしては頗《すこぶ》る自由な盛んな宴であった。花筵《タパ》十三枚、団扇《うちわ》三十枚、豚五頭、魚類の山、タロ芋の更に大きな山を、土産《みやげ》として貰う。とても持ちきれないから、と断ると、彼等の曰《いわ》く、「いや、是非、之等のものを積んでラウペパ王の家の前を通って帰って下さい。屹度《
前へ 次へ
全177ページ中123ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中島 敦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング