。オルランドオも近く入港の筈。

七月四日
 此の二三日政府側の軍隊(土民兵)が続々アピアに集結。赤銅色の戦士を満載して風上から入港して来るボートの群。その船首で、とんぼ返り[#「とんぼ返り」に傍点]をして景気をつける男。戦士等が舟の上から発する妙な威嚇的な喊声《かんせい》。太鼓の乱打。調子外れな喇叭《らっぱ》。
 アピア市中では赤い手巾《ハンカチ》が売切になって了った。赤ハンカチの鉢巻が、マリエトア(ラウペパ)軍の制服なのだ。顔を黒く隈どった赤鉢巻の青年達で、市中はごった返し[#「ごった返し」に傍点]ている。欧風の洋傘をさした少女と、異様な戦士との連立って行く様は、中々面白い。

七月八日
 戦は遂に始まった。
 夕食後、使が来て、負傷者等がミッション・ハウスヘ運ばれて来ている旨を告げた。ファニイ、ロイドと一緒に提灯《ちょうちん》を持って騎乗。かなり冷えるが、星の多い夜。タヌンガマノノに提灯は置き、あとは星明りで下る。
 アピアの街も、私自身も、妙な昂奮の中にある。私の昂奮は、憂鬱《ゆううつ》な・残忍なものであり、他の人々のは、呆然《ぼうぜん》たる、或いは、憤激せるそれである。
 臨
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