長官とがムリヌウからティヴォリ・ホテルに避難したそうだ。)途で土民兵の一隊が銃を担い弾薬筒を帯び、生々した様子で行進して来るのに遇う。ヴァイムスに着く。村の広場《マラエ》には武装した男達が充満。会議室の中にも人々が満ち、その出口の所から外を向いて、一人の演説者が大声でしゃべっている。誰の顔にも歓ばしげな昂奮《こうふん》がある。見知り越しの老酋長《ろうしゅうちょう》の所へ寄ったが、此の前会った時とは打って変って、若々しく活気づいて見えた。少し休んで一緒にスルイを吸う。帰ろうとして外へ出た時、顔を黒く隈《くま》どり、腰布のうしろを捲上《まきあ》げて臀部《でんぶ》の入墨をあらわした一人の男が進み出て、妙な踊をして見せ、小刀を空高く投上げて、それを見事に受けとめて見せた。野蛮で幻想的で、生気に溢《あふ》れた観ものである。以前にも少年がこんな事をするのを見たことがあるから、之は屹度《きっと》戦争時の儀礼みたいなものであろう。
家に帰ってからも、彼等の緊張した幸福げな顔が、頭の中に渦巻いている。我々の中なる古き蛮人が目覚め、種馬の如くに昂奮するのだ。しかし、私は、騒乱をよそに、じっとしておらねば
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