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武装兵の行進、諸|酋長《しゅうちょう》の来往、漸《ようや》く繁し。
六月二十七日
街へ下りてニュウスを聞く。流説紛々。昨夜遅く太鼓が響き、人々は武器を取ってムリヌウに馳《は》せつけたが、何事もなかったと。今の所、アピア市には、事なし。市参事官に尋ねたが、情報なしという。
街から西の渡し場迄行って、マターファ側の村々の様子を見ようと、馬に騎《の》る。ヴァイムスまで行くと、路傍の家々に人々がごたごた立騒いでいたが、武装はしていない。川を渡る。三百|碼《ヤード》で又、川。対岸の木蔭にウィンチェスターを担った七人の歩哨《ほしょう》がいる。近づいても、動きもしなければ声を掛けもしない。目で追うたのみ。私は馬に水を飲ませ、「タロファ!」と挨拶して其処を過ぎた。歩哨隊長も「タロファ!」と応えた。之から先の村には武装兵が一杯に詰めかけている。支那人商人の住む洋館一棟あり。中立旗が門の所に翻る。ヴェランダには人々、女達が多勢立って外を眺めている。中には銃を持った者もいた。此の支那人ばかりではなく、島に住む外国人は皆自己の資財を守るに汲々《きゅうきゅう》としている。(チーフ・ジャスティスと政務
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