sおの》が妻のことを考えましょう。」
夏島の街で見た或る離島人の耳。幼時から耳朶を伸ばし伸ばしした結果らしく、一尺五寸ばかりも紐《ひも》のように長く伸びている。それを、鎖でも捲くように、耳殻《じかく》に三廻《みまわり》ほど巻いて引掛けている。そういう耳をしたのが四人並んで、すまして洋品店の飾窓を覗いていた。
その離島へ行ったことのある某氏に聞くと、彼らは普通の耳をもった人間を見ると嗤《わら》うそうである。顎《あご》の無い人間でも見たかのように。
また、こういう島々に永くいると、美の規準について、多分に懐疑的になるそうだ。ヴォルテエル曰く、「蟾蜍《ひきがえる》に向って、美とは何ぞやと尋ねて見よ。蟾蜍は答えるに違いない。美とは、小さい頭から突出《つきで》た大きな二つの団栗眼《どんぐりまなこ》と、広い平べったい口と、黄色い腹と褐色の背中とを有《も》つ雌蟾蜍の謂《いい》だと。」云々《うんぬん》。
※[#ローマ数字5、1−13−25]
[#地から5字上げ]ロタ
断崖の白い・水の豊かな・非常に蝶の多い島。静かな昼間、人のいない官舎の裏に南瓜《カボチャ》の蔓《つる》が伸
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