ネ芸的な所も見せる。撃剣の竹刀《しない》の撃合《うちあ》うような音と、威勢のいい掛声とが入り交って、如何《いか》にも爽やかな感じである。
北西離島のものは、皆、仏桑華《ぶっそうげ》や印度素馨《インドそけい》の花輪を頭に付け、額と頬に朱黄色の顔料《タイク》を塗り、手頸足頸腕などに椰子《ヤシ》の若芽を捲《ま》き付け、同じく椰子の若芽で作った腰簑《こしみの》を揺すぶりながら踊るのである。中には耳朶《みみたぶ》に孔《あな》を穿《うが》ち、そこへ仏桑華の花を挿した者もある。右手の甲に、椰子若芽を十字形に組合せたものを軽く結び付け、最初、各人が指を細かく顫《ふる》わせて、これを動かす。すると、たちまち遠くの風のざわめきのような微妙な音が起る。これが合図で踊が始まる。そうして、掌で以て胸や腕のあたりを叩いてパンパンという烈しい音を立て、腰をひねり奇声を発しつつ、多分に性的な身振を交えて踊り狂うのである。
歌の中でも、踊を伴わないものは、全部といって良い位、憂鬱《ゆううつ》な旋律ばかりであった。その題名にも、すこぶるおかしなものが多い。その一例。シュック島の歌。「他人《ひと》の妻のことを思わず、己
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