Zから給与されるのか、感心に鞄だけは掛けているようだ。てんでに、椰子《ヤシ》の果《み》の外皮を剥《む》いたものを腰にさげているのは、飲料なのである。それらのおんぼろ[#「おんぼろ」に傍点]をぶら下げた連中が、それぞれ足を思い切り高く上げ手を大きく振りつつ、あらん限りの声を張上げて(校長官舎の庭にさし掛かると、また一段と声が大きくなったようだ)朝の椰子影の長く曳《ひ》いた運動場へと行進して行くのは、なかなかに微笑《ほほえ》ましい眺めであった。
その朝は、他に二組同じような行進が挨拶に来た。
夏島で見た各離島の踊の中では、ローソップ島の竹踊《クーサーサ》が最も目覚ましかった。三十人ばかりの男が、互いに向いあった二列の環《わ》を作り、各人両手に一本ずつ三尺足らずの竹の棒を持って、これを打合わせつつ踊るのである。あるいは地を叩き、あるいは対者の竹を打ち、エイサッサ、エイサッサと景気のいい掛声をかけつつ、廻《めぐ》り廻って踊る。外の環と内の環とが入違いに廻るので、互いに竹を打合わせる相手が順次に変って行く訳だ。時に、後向きになり片脚を上げて股《また》の間から背後の者の竹を打つなど、なかなか
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