`ャしている。相当に富裕なのであろう。家は汚いが、かなり広い。家の裏からすぐ海に向って、大きな独木舟《カヌー》がしまってあり、その周囲に雑然と鍋・釜・トランク・鏡・椰子殻・貝殻などが散らかっている。その間を、猫と犬と鶏とが(山羊と豚だけは上って来ないが)床の上まで踏み込んで来て、走り、叫び、吠え、漁り、あるいは寝ころがっている。大変な乱雑さである。
椰子水と石焼の麺麭《パン》の実を運んで来た。椰子水を飲んでから、殻を割って中のコプラを喰べていると、犬が寄って来てねだる[#「ねだる」に傍点]。コプラがひどく好きらしい。麺麭の実は幾ら与えても見向きもしない。犬ばかりでなく、鶏どももコプラは好物のようである。その若い女のたどたどしい日本語の説明を聞くと、この家の動物どもの中で一番威張っているのはやはり犬だそうだ。犬がいない時は豚が威張り、その次は山羊だという。バナナも出してくれたが、熟し過ぎていて、餡《あんこ》を嘗《な》めているような気がした。ラカタンとてこの島のバナナの中では最上種の由。
独木舟《カヌー》の置いてある室の奥に、一段|床《ゆか》を高くした部屋があり、其処《そこ》に家族らが
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