轤ゥである。
総じてポナペには顔立の整った島民が多いようだ。他のカロリン人と違って、檳榔子《びんろうず》を噛む習慣が無く、シャカオと称する一種の酒の如きものを嗜《たしな》む。これはポリネシヤのカヴァと同種のものらしいから、あるいは、此処《ここ》の島民にはポリネシヤ人の血でも多少はいっているのかも知れぬ。
椰子の根元に立った二人の幼児は、島民らしくない小綺麗《こぎれい》な服を着ている。彼らと話を始めようとしたのだが、生憎《あいにく》、コンニチハの外、何にも日本語を知らないのである。島民語だって、まだ怪しいものだ。二人ともニコニコしながら何度もコンニチハと言って頭を下げるだけだ。
その中に、家の中から若い女が出て来て挨拶した。子供らに似ている所から見れば、母親だろう。余り達者でない・公学校式の角張った日本語で、ウチヘハイッテ、休ンデクダサイと言う。ちょうど咽喉《のど》が涸《かわ》いていたので、椰子水でも貰おうかと、豚の逃亡を防ぐための柵を乗越して裏から家の庭にはいった。
恐ろしく動物の沢山いる家だ。犬が十頭近く、豚もそれ位、その外、猫だの山羊だの鶏だの家鴨《あひる》だのが、ゴチャゴ
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