ネ匂のする・何の変哲も無いヘルメット帽である。しかし、私にはそれがアラディンのランプの如くに霊妙不可思議なものと思われた。
※[#ローマ数字3、1−13−23]
[#地から5字上げ]ポナペ
島が大きいせいか、大分涼しい。雨が頻《しき》りに来る。
綿《カポック》の木と椰子《ヤシ》との密林を行けば、地上に淡紅色の昼顔が点々として可憐だ。
J村の道を歩いていると、突然コンニチハという幼い声がする。見ると、道の右側の家の裏から、二人の大変小さい土民の児が――一人は男、一人は女だが、切って揃えたような背の丈だ。――挨拶をしているのだ。二人ともせいぜい四歳《よっつ》になったばかりかと思われる。大きな椰子の根上りした、その鬚《ひげ》だらけの根元に立っているので、余計に小さく見えるのであろう。思わず此方も笑ってしまって、コンニチハ、イイコダネというと、子供たちはもう一度コンニチハとゆっくり言って大変|叮嚀《ていねい》に頭を下げた。頭は下げるが、眼だけは大きく開けて、上目使いに此方を見ている。空色の愛くるしい大きな眼だ。白人の――恐らくは昔の捕鯨者らの――血の交っていることは明
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