翌ヌもがごろごろしており、そういう連中が多く蛸樹の葉の繊維で編物をやっているのである。M氏より十歩ばかり先へ歩いていた私は、或る家の縁の下に一人の痩《や》せた女が帯《バンド》を編んでいる所を見付けた。帯はなかなか出来上りそうもないが、傍には既に出来上ったバスケットが一つ置いてある。私は、案内役の島民少年にバスケットの値段を聞かせる。三円だという。もう少し安くならないかと言わせたが、なかなか承知しそうもない。そこへM氏が現れた。M氏も少年に値段を聞かせる。女はチラと私と見比べるようにして、M技師を――いや、M技師の帽子を、そのヘルメットを見上げる。「二円」と即座に女は答える。オヤッと私は思った。女はまだ自信の無いような態度で何かモゴモゴと口の中で言っている。少年に通訳させると、「二円だけれど、何なら一円五十銭でもいい」と言っているのだそうだ。私が呆気《あっけ》に取られている中に、M氏はさっさ[#「さっさ」に傍点]と一円五十銭でそのバスケットを買上げてしまう。
宿へ帰ってから、私はM氏の帽子を手に取って、しげしげと眺めた。相当に古い・既に形の崩れた・所々に汚点《しみ》の付いた・おまけに厭
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