L《うずくま》ったり、寝そべったりしているらしい。明り取りが無くて薄暗いので、隅の方は良く判らないが、此方から見る正面には、一人の老婆が傲然《ごうぜん》と――誠に女王の如く傲然と踞坐《こざ》して煙草を吸っている。そうして、外からの侵入者に警戒するような・幾分敵意を含んだ目で、私の方を凝乎《じっ》と見ている様子である。あれは誰だと、若い女に聞けば、ワタシノダンナサン[#「ダンナサン」に傍点]ノオ母サンと答えた。威張っているね、と言うと、一番エライカラと言う。
 その薄暗い奥から、十歳ばかりの痩せた女の子が、時々独木舟の向う側まで出て来ては、口をポカンとあけて此方を覗《のぞ》く。この家の者は皆きちん[#「きちん」に傍点]とした服装《なり》をしているのに、この子だけはほとんど裸体である。色が気味悪く白く、絶えず舌を出して赤ん坊の様にベロベロ音を立て、涎《よだれ》を垂れ、意味も無く手を振り足を摺《す》る。白痴なのであろう。奥から、女王然たる老婆が喫煙を止めて、何か叱る。烈しい調子である。手に何か白いきれを持ち、それを振って白痴の子を呼んでいる。女の子が側へ戻って行くと、怖い顔をしながら、それを
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