B魚釣の話が一番|後《あと》に出たものだから、少し慌てて聞いていると、警部補は魚釣が下手故この島の行政事務を任せては置けないという風な論旨に取られかねないのである。聞いている中に、先ほどは何とも感じなかった・あの横幅の広い警部補に何だか好感が持てそうな気がして来た。
島を案内しようというのを断って公学校を退却すると、私は独りで、島民に道を聞きながら、「レロの遺跡」という名で知られている古代城郭の址《あと》を見に行った。今まで曇っていた空から陽が洩れ始め、島は急に熱帯的な相貌を帯びて来た。
海岸から折れて一丁も行かない中に、目指す石の塁壁《るいへき》にぶつかる。鬱蒼《うっそう》たる熱帯樹に蔽《おお》われ苔《こけ》に埋もれてはいるが、素晴らしく大きな玄武岩の構築物だ。
入口をはいってからがなかなか広い。苔で滑りやすい石畳路が紆余曲折《うよきょくせつ》して続く。室の跡らしいもの、井戸の形をしたものなどが、密生した羊歯《しだ》類の間に見え隠れする。塁壁の崩れか、所々に※[#「「壘」の「土」に代えて「糸」」、第3水準1−90−24]々《るいるい》たる石塊の山が積まれている。到る所に椰子《
前へ
次へ
全83ページ中58ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中島 敦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング