ネいたましさ[#「いたましさ」に傍点]を再び感じたことも事実である。但し、この場合もまた、そのいたましさ[#「いたましさ」に傍点]が、純白のドレスに対してやら、それを着けた当人に対してやら、はっきりしなかったのだが。

 彼女の盛装姿を見てから二、三日後のこと、私が宿舎の部屋で本を読んでいると、外で、聞いたことのあるような口笛の音がする。窓から覗くと、すぐ傍《そば》のバナナ畑の下草をマリヤンが刈取っているのだ。島民女に時々課せられるこの町の勤労奉仕に違いない。マリヤンの外にも、七、八人の島民女が鎌を手にして草の間にかがんでいる。口笛は別に私を呼んだのではないらしい。(マリヤンはH氏の部屋にはいつも行くが、私の部屋は知らないはずである。)マリヤンは私に見られていることも知らずにせっせ[#「せっせ」に傍点]と刈っている。この間の盛装に比べて今日はまたひどいなりをしている。色の褪《あ》せた、野良仕事用のアッパッパに、島民並の跣足《はだし》である。口笛は、働きながら、時々自分でも気が付かずに吹いているらしい。側の大籠に一杯刈り溜めると、かがめていた腰を伸ばして、此方に顔を向けた。私を認めるとニ
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