Wで、(パラオでは特にこれがやかましい)滅多な者を迎えることも出来ず、また、マリヤンが開化し過ぎているために大抵の島民の男では相手にならず、結局、もうマリヤンは結婚できないのじゃないかな、と、H氏は言っていた。そういえば、マリヤンの友達は、どうも日本人ばかりのようだ。夕方など、いつも内地人の商人の細君連の縁台などに割込んで話している。それも、どうやら、大抵の場合マリヤンがその雑談の牛耳を執っているらしいのである。

 私はマリヤンの盛装した姿を見たことがある。真白な洋装にハイ・ヒールを穿《は》き、短い洋傘を手にしたいでたち[#「いでたち」に傍点]である。彼女の顔色は例によって生々《いきいき》と、あるいはテラテラと茶褐色にあくまで光り輝き、短い袖からは鬼をもひしぎそうな赤銅色の太い腕が逞《たくま》しく出ており、円柱の如き脚の下で、靴の細く高い踵《かかと》が折れそうに見えた。貧弱な体躯を有った者の・体格的優越者に対する偏見を力《つと》めて排しようとはしながらも、私は何かしら可笑《おか》しさがこみ上げて来るのを禁じ得なかった。が、それと同時に、いつか彼女の部屋で『英詩選釈』を発見した時のよう
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