ウい。だが、マリヤンの実母というのが、コロールの第一長老家イデイズ家の出なのだ。つまり、マリヤンはコロール島第一の名家に属するのである。彼女が今でもコロール島民女子青年団長をしているのは、彼女の才気の外に、この家柄にも依《よ》るのだ。マリヤンの夫だった男は、パラオ本島オギワル村の者だが、(パラオでは女系制度ではあるが、結婚している間は、やはり、妻が夫の家に赴いて住む。夫が死ねば子供らをみんな引連れて実家に帰ってしまうけれども)こうした家格の関係もあり、また、マリヤンが田舎住いを厭うので、やや変則的ではあるが、夫の方がマリヤンの家に来て住んでいた。それをマリヤンが追出したのである。体格からいっても男の方が敵《かな》わなかったのかも知れぬ。しかし、その後、追出された男がしばしばマリヤンの家に来て、慰藉料《ツガキーレン》などを持出しては復縁を嘆願するので、一度だけその願を容れて、また同棲したのだそうだが、嫉妬男《やきもちおとこ》の本性は依然直らず(というよりも、実際は、マリヤンと男との頭脳の程度の相違が何よりの原因らしく)再び別れたのだという。そうして、それ以来、独りでいる訳である。家柄の関
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