ケやがる!」と警官は、それでもようやく安堵したように、そう言った。
翌日も完全な上天気であった。一日陸を見ずに、船は南へ走った。
ようやく夕方近くなって、無人島H礁の環礁の中に入った。無人島に船を寄せるのは、万一漂流者がありはせぬかを調べるためだろうと私は思った。何処かの命令航路の規約にそんな事が書いてあったのを憶えていたからである。ところが実際は、そんな甘い人道的な考え方からではなかった。此処での高瀬貝採取権を独占している南洋貿易会社からの頼みで、密漁者を取締るのが目的なのだという。
甲板の上から見ると、夥《おびただ》しい海鳥の群がこの低い珊瑚礁島を蔽うている。船員の二、三に誘われ上陸して見て、更に驚いた。岩の陰も木の上も砂の上も、ただ一面の鳥、鳥、鳥、それから鳥の卵と鳥の糞《ふん》とである。そうして、それら無数の鳥どもは我々が近寄っても逃げようとはしない。捕えようとすると、始めて僅かに二、三歩よたよた[#「よたよた」に傍点]と避けるだけである。大きいのは人間の子供位なのから、小さいのは雀位のものに至るまで、白いもの、灰色のもの、薄茶色のもの、淡青のもの、何万とも数え切れぬ数
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