ョうん」に傍点]と低く沈んで行く。紺青鬼《こんじょうき》という言葉を私は思出した。それがどんな鬼か知らないが、無数の真蒼な小鬼どもが白金の光耀《こうよう》粲爛《さんらん》たる中で乱舞したら、あるいはこの海と空の華麗さを呈するかも知れないと、そんなとりとめない事を考えていた。
しばらくして、余りの眩《まばゆ》さに海から眼を外らして前を見ると、つい先刻まで私と話していた若い警官は、布製の寝椅子に凭《よ》ったまま、既に快《こころよ》げな寝息を立てていた。
午《ひる》近く、船は珊瑚礁《さんごしょう》の罅隙《かげき》の水道を通って湾に入った。S島だ。黒き小ナポレオンのいるというエルバ島である。
低い・全然丘の無い・小さな珊瑚島だ。緩く半円を描いた渚の砂は――珊瑚の屑は、余りにも真白で眼に痛い。年老いた椰子《ヤシ》樹の列が青い昼の光の中に亭々と聳《そび》え立ち、その下に隠見する土人の小舎がひどく低く小さく見える。二、三十人の土民男女が浜に出て、眼をしかめたり小手を翳《かざ》したりしながら、我々の船の方を見ている。
潮の関係で、突堤には着けられなかった。岸から半丁ほど離れて船が泊ると、迎え
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