3水準1−93−66]戲への耽溺も再び始まつた。雌伏時代とは違つて、今度こそ思ひ切り派手に此の娯しみに耽る事が出來る。金と權勢とに※[#「厭/(餮−殄)」、第4水準2−92−73]かして國内國外から雄※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]の優れたものが悉く集められた。殊に、魯の一貴人から購め得た一羽の如き、羽毛は金の如く距《けづめ》は鐵の如く、高冠昂尾《かうくわんかうび》、誠に稀に見る逸物である。後宮に立入らぬ日はあつても、衞侯が此の※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]の毛を立て翼を奮ふ状を見ない日は無かつた。

 一日、城樓から下の街々を眺めてゐると、一ヶ所甚だ雜然とした陋穢な一劃が目に付いた。侍臣に問へば戎人の部落だといふ。戎人とは西方化外の民の血を引いた異種族である。眼障りだから取拂へと莊公は命じ、都門の外十里の地に放逐させることにした。幼を負ひ老を曳き、家財道具を車に積んだ賤民共が陸續と都門の外へ出て行く。役人に追立てられて慌て惑ふ状《さま》が、城樓の上からも一々見て取れる。追立てられる群集の中に一人、際立つて髮の美しく豐かな女がゐるのを、莊公は見付けた。直ぐに人を遣
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