《ゐゐ》として「諾」と答へるほかは無い。
翌年の春、莊公は郊外の遊覽地|籍圃《せきほ》に一亭を設け、墻塀、器具、緞帳の類を凡て虎の模樣一式で飾つた。落成式の當日、公は華やかな宴を開き、衞國の名流は綺羅を飾つて悉く此の地に會した。渾良夫《こんりやうふ》はもと/\小姓上りとて派手好みの伊達男である。此の日彼は紫衣に狐裘《こきう》を重ね、牡馬二頭立の豪奢な車を驅つて宴に赴いた。自由な無禮講のこととて、別に劍を外《はづ》しもせずに食卓に就き、食事半ばにして暑くなつたので、裘を脱いだ。此の態を見た太子は、いきなり良夫に躍りかかり、胸倉を掴んで引摺り出すと、白刃を其の鼻先に突きつけて詰つた。君寵を恃んで無禮を働くにも程があるぞ。君に代つて此の場で汝を誅するのだ。
腕力に自信の無い良夫は強ひて抵抗もせず、莊公に向つて哀願の視線を送りながら、叫ぶ。嘗て御主君は死罪三件まで之を免ぜんと我に約し給うた。されば、假令今我に罪ありとするも、太子は刃を加へることが出來ぬ筈だ。
三件とや? 然らば汝の罪を數へよう。汝今日、國君の服たる紫衣をまとふ。罪一つ。天子直參の上卿用たる衷甸兩牡《ちゆうじようりやうぼ
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