きて流に横たわり、水辺を迷うが如し。大国これを滅ぼし、将《まさ》に亡びんとす。城門と水門とを閉じ、乃《すなわ》ち後より踰《こ》えん」とある。大国とあるのが、晋であろうことだけは判るが、其の他の意味は判然しない。兎に角、衛侯の前途の暗いものであることだけは確かと思われた。
残年の短かさを覚悟させられた荘公は、晋国の圧迫と太子の専横《せんおう》とに対して確乎たる処置を講ずる代りに、暗い予言の実現する前に少しでも多くの快楽を貪ろうと只管《ひたすら》にあせるばかりである。大規模の工事が相継いで起され過激な労働が強制されて、工匠石匠等の怨嗟《えんさ》の声が巷《ちまた》に満ちた。一時忘れられていた闘※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]戯への耽溺も再び始まった。雌伏時代とは違って、今度こそ思い切り派手に此の娯しみに耽ることが出来る。金と権勢とに※[#「厭/食」、第4水準2−92−73]《あ》かして国内国外から雄※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]の優れたものが悉く集められた。殊に、魯《ろ》の一貴人から購め得た一羽の如き、羽毛は金の如く距《けづめ》は鉄の如く、高冠昂尾《こうかんこうび》、
前へ
次へ
全20ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中島 敦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング