ホ、価値尺度財を捨象して、間接的価格から直接的価格に達し得ると同様に、貨幣を捨象して、間接的交換から直接的交換に到ることが出来る。
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第十五章 商品の購買曲線と販売曲線。価格曲線
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要目 一五一 多数商品の場合は二商品の場合に帰着する。(A)、(B)、(C)、(D)……間の一般均衡。(B)の出現。(B)による(A)、(C)、(D)……の部分的需要曲線。(A)、(C)、(D)……による(B)の部分的需要曲線。(A)、(C)、(D)……の所有者及び(B)の所有者の場合。購買曲線と販売曲線。一五二 比例的減少の条件。一五三 (B)の供給が総存在量に等しい場合。一五四 価格の曲線。一五五 購買曲線と販売曲線は交換方程式から導き出すことが出来る。一五六 一般に唯一の市場価格が存在する。
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一五一 私が交換方程式に与えた解(第一二七――三〇節)から既に、一商品を価値尺度財として採用すれば、その結果として、多数の商品の交換の場合をある点まで二商品相互の間の交換の場合に帰せしめることが出来、一般均衡の市場価格の決定を簡単にすることが出来るということが出てくる。ここでもまた私は、この単純化が、純粋理論の見地からも、応用理論の見地からも、実践の見地からも、はなはだ重要なことを力説せねばならない。けだし価値尺度財を用いるこの仮定に立てば、我々はますます実際に近づいてくるからである。
(A)を価値尺度財とする。一方において、商品(A)、(C)、(D)……の有効に需要せられた量をそれらの有効に供給せられた量に等しく、P', Q', R', S', K', L' ……であるとし、(A)で表わした(C)、(D)の一般均衡価格 pc[#「c」は下付き小文字]=π, pd[#「d」は下付き小文字]=ρ で交換せられ、または交換せられようとしているとする。他方、市場に(B)商品が現われて、商品(A)、(C)、(D)……と交換せられるとする。
これだけを前提として、多数の者のうちから(B)の一所有者を採って考える。もし、(A)で表わした(B)の価格 pb[#「b」は下付き小文字] すなわち(B)で表わした(A)の価格[#式(fig45210_020.png)入る]において、この所有者が(B)の ob[#「b」は下付き小文字] 量を供給するとすれば、彼はこれと交換に、(A)の da[#「a」は下付き小文字]=ob[#「b」は下付き小文字]pb[#「b」は下付き小文字] 量を受けるであろう。そして(A)で表わした(C)、(D)……の価格を知っているから、彼はこの(A)の量を、(A)と(C)と(D)……との間にいかに配分すべきかを、よく理由を知って、決定することが出来る。他の言葉でいえば、決定した価格 π, ρ ……を使っている故に、彼が知らねばならぬのは、決定すべき価格 pb[#「b」は下付き小文字] だけである。だが彼はこの価格について可能なあらゆる仮定を作ることが出来、かつこれらの仮定の各々に対して、せり上げの傾向をあるいは pb[#「b」は下付き小文字] の函数としての(B)の供給曲線により、あるいは[#式(fig45210_020.png)入る]の函数としての(A)需要曲線 ad[#「d」は下付き小文字]ap[#「p」は下付き小文字](第七図)によって表わすことが出来る。
[#図(fig45210_121.png)入る]
実際においても事は全くこのように行われる。市場に新しい商品が現われると、この商品の所有者らはその量のどれだけを犠牲にし、他の商品の量のどれだけを得べきかを決定し、自分の商品の供給をその価格を基礎として調整する。
他方、多数の者のうち、(A)、(C)、(D)……のすべてを所有する者を採って考えてみる。もし、この所有者が(A)で表わした(B)の価格 pb[#「b」は下付き小文字] で、(B)の db[#「b」は下付き小文字] 量を需要すれば、この人はこれと交換に oa[#「a」は下付き小文字]=db[#「b」は下付き小文字]pb[#「b」は下付き小文字] に等価値な(A)、(C)、(D)…の量を与えねばならぬ。そして(A)で表わした(C)、(D)の価格をよく知っているのであるから、この人は、よく理由を知って、この(A)の量を(A)、(C)、(D)をもっていかに構成すべきかを決定し得るであろう。他の言葉でいえば、決定した価格 π, ρ ……を知っているのであるから、彼が知らないのは、決定すべき pb[#「b」は下付き小文字] だけである。しかし彼は、この価格については可能なすべての仮定をなすことが出来、これらの仮定の各々に対し、せり上げの傾向を pb[#「b」は下付き小文字] の函数としての(B)の需要曲線 bd[#「d」は下付き小文字]bp[#「p」は下付き小文字] によって表わすことが出来る。
ここでもまた、実際においても事は全くこのように行われる。市場に新しい商品が現われると、他の商品の所有者らは、この新しい商品のどれだけの量を得、他の商品のどれだけの量を犠牲にすべきかを決定しながら、この商品の需要をその価格を基礎として調整する。
私は、交換者が(B)の所有者であると同時に(A)、(C)、(D)……の所有者である場合についていわなかった。しかしこの場合もまた二商品相互の間の交換の理論によってあらかじめ知られている。かかる交換者は二つの曲線、すなわちある価格に対する(A)の需要曲線または(B)の供給曲線と、それらの価格の逆数の価格に対する(B)の需要曲線または(A)の供給曲線を作らねばならぬ(第九四節)。そしてこれらの二曲線が先の曲線に加えられる。
[#図(fig45210_122.png)入る]
部分的需要曲線が加えられて、総需要の曲線 Ad[#「d」は下付き小文字]Ap[#「p」は下付き小文字], Bd[#「d」は下付き小文字]Bp[#「p」は下付き小文字](第八図)となる。(A)の需要曲線 Ad[#「d」は下付き小文字]Ap[#「p」は下付き小文字] からは、(B)の供給曲線 NP が導き出される。この供給曲線はまたこの同じ商品の部分的供給曲線の合計により、直接にも得られる。価値尺度財でなされる(B)の需要の曲線である所の逓減曲線 Bd[#「d」は下付き小文字]Bp[#「p」は下付き小文字] は購買曲線[#「購買曲線」に傍点](courbe d'achat)と呼ばれ、価値尺度財と交換になされる(B)の供給の曲線である NP は初めゼロから逓増し、次に逓減してゼロに(無限遠点において)終り、販売曲線[#「販売曲線」に傍点](courbe de vente)と呼ぶことが出来る。これら二曲線の交点(B)は、価格 pb[#「b」は下付き小文字]=μ を決定する。
一五二 だがこの最初の決定は決定的であろうか。ここに二商品相互の間の交換に存在しない問題が現われてくる。市場に(B)が現われる以前に存在した一般均衡においては、価格 π, ρ と、この価格において交換せられるべき量 P', Q', R', S', K', L' ……との間には次の関係があった。
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P'=Q'π, R'=S'ρ, K'π=L'ρ ……
[#ここで字下げ終わり]
(B)の出現の後にもこの均衡が存在するためには、価格 μ, π, ρ と量 M, N, P, Q, R, S, F, G, H, J, K, L ……(第一四八節)との間に、μの決定方法によって有効に得られる関係
[#ここから4字下げ]
M=Nμ, Fμ=Gπ, Hμ=Jρ ……
[#ここで字下げ終わり]
がなければならないのみでなく、また次の関係が成立せねばならぬ。
[#ここから4字下げ]
P=Qπ, R=Sρ, Kπ=Lρ ……
[#ここで字下げ終わり]
ところでこれらの後の方程式を最初の方程式と比較して、容易に
[#ここから4字下げ]
[#式(fig45210_123.png)入る]
[#ここで字下げ終わり]
が得られる。
よって、――一般均衡状態における市場に新しい一商品が現われるとすると[#「一般均衡状態における市場に新しい一商品が現われるとすると」に傍点]、この商品の価格は価値尺度財でなされるこの需要と価値尺度財と交換になされるその供給との均等によって決定するのであるから[#「この商品の価格は価値尺度財でなされるこの需要と価値尺度財と交換になされるその供給との均等によって決定するのであるから」に傍点]、市場の一般均衡が妨げられず[#「市場の一般均衡が妨げられず」に傍点]、定まった価格が決定的であるためには[#「定まった価格が決定的であるためには」に傍点]、市場に新商品の出現する以前及び後において[#「市場に新商品の出現する以前及び後において」に傍点]、元の商品の相互の需要または供給が同じ比例を保っていなければならぬ[#「元の商品の相互の需要または供給が同じ比例を保っていなければならぬ」に傍点]。
この条件は、新商品が現われる場合にも、または元の商品の一つが価格騰貴をなす場合にも、絶対的に充されることはほとんどない。従って価格μで(B)の需要と供給とは等しく、価格 π, ρ における(A)、(C)、(D)……の需要と供給とは不均等となるであろう。従って一般的な場合であっては、需要が供給より大となった商品の価格を騰貴せしめねばならぬし、供給が需要より大となった商品の価格を下落せしめねばならぬ(第一三〇節)。かくて(B)の価格がμとは少しく異る一般均衡状態に達するのである。
今問題となる条件は絶対的にはほとんど全く充されないのみでなく、また商品(B)が他のある商品(C)または(D)の職能を果しこれらに代用され得て、後者の価格を著しく下落せしめる場合を想像することが出来る。これは日々私共が見る所である。だがこの特別な場合を除き、(B)が独特の商品であるとすれば、または先に市場にあった商品のうちで、商品(B)により何ら特別な競争を受けないような商品だけしか考えないとすれば、かつこれらの商品が多数であってまた量においても多量であるとすれば、先にいったようにして作られた(B)の販売曲線及び購買曲線から生ずる価格μは、ほぼ決定的な価格であろうことを、容易に認めることが出来よう。実際この場合には、(B)と交換せられる(A)、(C)、(D)……の供給となるために向けられるこれらの商品の部分は、これら多数の商品中の各々から借りられるのではあるが、しかしこれらは極めて小さい部分であり、ことにこれら商品の各々の量に比較してはいよいよ小さい部分である。だからこれらの部分は、(B)と他のすべての商品との交換の当初の割合を著しく変化せぬであろう。
一五三 当面の問題である特殊な場合で、極めて簡単ではあるが、特に考える価値のある場合がある。それは、市場に現われた新商品のすべての所有者が、この商品のみの所有者であってもまたは同時に他の古い商品の所有者であっても、とにかく新商品のすべての量、存在するすべての量を、いかなる価格においても供給する場合である。この場合に起るせり上げの特殊な形態は、この商品の全量が一度に供給せられると仮定すれば、競売のそれである。この場合には、市場価格は、数学的には、距離 OQb[#「b」は下付き小文字] を(B)の存在量に等しからしめるような点 Qb[#「b」は下付き小文字] を通って引かれ、価格の軸に平行な直線 Qb[#「b」は下付き小文字]πb[#「b」は下付き小文字] と購買曲線 Bd[#「d」は下付き小文字]Bp[#「p」は下付き小文字] との交点πによって決定せられる。この場合に販売曲線となるものはこの平行線である。かく簡単な場合は実際においては極めてしばしばである。なぜなら商品の大部分は生産物であり、かつ一般には、生産者はその生産物の全量を売るかまたは自分のためには極めて僅少の量をしか
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