小文字] ……であって、各交換者は(A)、(B)、(C)、(D)……等のそれぞれの量を所有、これらが各交換者に最大満足を与えると想像する。かつ利用の増減という表現を、常に欲望曲線の移動の意味にのみ用いることとする。この移動は、その結果として、交換後における充された最後の欲望の強度すなわち稀少性を増減する。これだけを前提として、(B)の利用増加すなわち(B)の欲望曲線の移動が生じ、その結果ある交換者に対する(B)の稀少性の増加が生じたとする。しからばこれらの人々にとってはもはや最大満足ではあり得ない。これらの人々は、価格 pb[#「b」は下付き小文字], pc[#「c」は下付き小文字], pd[#「d」は下付き小文字] ……で(B)を需要し、(A)、(C)、(D)……を供給するのが有利である。ところで、価格 pb[#「b」は下付き小文字], pc[#「c」は下付き小文字], pd[#「d」は下付き小文字] ……ですべての商品(A)、(B)、(C)、(D)……の需要と供給とが均等していたとすれば、今やこれらの価値では、(B)の需要はその供給を超え、(A)、(C)、(D)……の供給は需要を超える。そこで pb[#「b」は下付き小文字] は騰貴する。このときから、他の交換者にとっても、最大満足ではないであろう。そして、(A)で表わした(B)の価格が pb[#「b」は下付き小文字] より大であれば、これらの人々は(B)を供給し、(A)、(C)、(D)……を需要するのが有利である。すべての商品(A)、(B)、(C)、(D)……の需要と供給とが相等しくなるとき、均衡は成立する。だから、右に仮定した人々に対する(B)の利用の増大は、その結果として、(B)の価格を騰貴せしめる。それはまた、その結果として、(C)、(D)……の価格を変化せしめ得る。だがまず、もし(B)以外の商品が市場に多数存在し、従って(B)と交換せられるそれらの各々の量が極めて小であるとすると、(C)、(D)……等の価格の変化は、(B)の価格の変化より著しくない。かつ、(C)、(D)……の価格のこれらの変化が騰貴となって現われるかまたは下落となって現われるかは、何ものも示してくれない。否、騰貴または下落が起るであろうことさえも、何ものも示してくれない。このことは、補充的交換が行われて新しい均衡が成立したときの稀少性の地位を研究すれば了解することが出来る。補充的な交換によって、(B)の稀少性の(A)の稀少性に対する比は、すべての交換者において必然的に増加する。すなわち各交換者におけるこの比の増加は、(B)利用が変化せず、(B)を再び売って、(A)、(C)、(D)……を買い戻す人にあっては、(B)の稀少性の増加と(A)の稀少性の減少によって生ずる。またこの比の増加は、(B)の利用が増加し、従って(B)を買戻し、(A)、(C)、(D)……を再び売る人においては、(A)の稀少性の増加と(B)の稀少性のより強い増加によって生ずる。また各交換者における(C)、(D)……の稀少性の(A)の稀少性に対する比について見るに、これらの比のうちのあるものは増加し、他のある比は減少し、またある比は変化しない。従って、(C)、(D)……の価格のうち、あるものは騰貴し、あるものは下落し、またあるものは変化しない。要するに、(B)の稀少性はすべての交換者において増加し、その平均稀少性は増加するけれども、(A)、(C)、(D)……の稀少性は、ある交換者においては増加し、ある者においては減少して、その平均稀少性は変化しないことを注意すべきである。我々は、もし欲するならば、各型の交換者につき、右に述べた減少をグラフで表わすことが出来る。例えば第五図において、(B)の利用は交換者(1)において増加したから、この交換者は(B)を買戻し、(A)、(D)を売る。交換者(2)は何事もしない。交換者(3)は(B)を再び売って、(A)、(D)を買戻す。これらが(B)の利用の増加の結果である。この利用の減少はこれと反対の結果、すなわち(B)の価格の下落と(C)、(D)……の価格の僅少な変化を生ぜしめることは明らかである。
 所有量の増加がその結果として稀少性を減少せしめ、またこの所有量の減少がその結果として稀少性を増加せしめることを知るには、欲望曲線を見るに如くはない。かつ稀少性が減少しまたは増加すれば、価格は下落しまたは高騰することは、右に見てきた如くである。故に所有量の変化の結果は、利用の変化の結果と単純にかつ全く反対であって、従って、私共は、求める法則を次の言葉でいい表わすことが出来る。
 交換が価値尺度財の仲介で行われる市場において[#「交換が価値尺度財の仲介で行われる市場において」に傍点]、多数の商品が均衡状態において与えられたとして[#「多数の商品が均衡状態において与えられたとして」に傍点]、もし他のすべての事情が同一であって[#「もし他のすべての事情が同一であって」に傍点]、これらの商品の中の一商品の利用が交換者の一人または多数に対し増加しまたは減少すれば[#「これらの商品の中の一商品の利用が交換者の一人または多数に対し増加しまたは減少すれば」に傍点]、価値尺度財で表わしたこの商品の価格は増大しまたは減少する[#「価値尺度財で表わしたこの商品の価格は増大しまたは減少する」に傍点]。
 またもし他のすべての事情が同一であり[#「またもし他のすべての事情が同一であり」に傍点]、これらの商品の中の一商品の量が所有者の一人または多数において増加しまたは減少すれば[#「これらの商品の中の一商品の量が所有者の一人または多数において増加しまたは減少すれば」に傍点]、この商品の価格は減少しまたは増加する[#「この商品の価格は減少しまたは増加する」に傍点]。
 ここで注意せねばならぬが、価格の変化は必然的にこれらの価格の原因に変化があったことを示すにしても、価格に変化が無いのは必ずしもこれらの価格の要因に変化がないことを示すものではない。けだし、私共は、何らの他の証明をしないでも、直ちに次の二命題を立言することが出来るからである。
 多数の商品が与えられ[#「多数の商品が与えられ」に傍点]、これらの商品の中の一商品の量が交換者または所有者の一人または多数において変化しても[#「これらの商品の中の一商品の量が交換者または所有者の一人または多数において変化しても」に傍点]、稀少性が変化しないとすれば、この商品の価格は変化しない[#「稀少性が変化しないとすれば、この商品の価格は変化しない」に傍点]。
 すべての商品の利用と量とが交換者または所有者の一人または多数において変化しても[#「すべての商品の利用と量とが交換者または所有者の一人または多数において変化しても」に傍点]、稀少性の比に変化が無いとすれば[#「稀少性の比に変化が無いとすれば」に傍点]、これらの商品の価格は変化しない[#「これらの商品の価格は変化しない」に傍点]。
 一三八 これが均衡価格の変動の法則である。これを均衡価格成立の法則(第一三〇節)と結合すれば、経済学上需要供給の法則[#「需要供給の法則」は太字][#「需要供給の法則」は底本では「需用供給の法則」]と称せられる法則の科学的形式が得られる。この法則は最も根本的な法則でありながら、今日まで、無意味なまたは誤った表現しか与えられていなかった。ある人は「物の価格は需要供給の比によって決定せられる」といって、特に価格の成立のみを見ている。またある人は「物の価格は需要に正比例して変化し、供給に反比例して変化する」といって、むしろ価格の変動を見ている。だが、実は一つのものに過ぎない所のこれらの二つの表現に、何らかの意味を与えようとすれば、まず需要と供給との定義を与えねばならない。ところで供給を定義して有効供給の意味としても、また所有量または存在量としても、また需要を定義して有効需要の意味としても、または外延利用としても強度利用としても、あるいはまた外延と強度の双方を含む利用としても、あるいは可能的利用としても、比という語を商(quotient)という数学的意味に解すれば、価格が需要の供給に対する比でもなければ、また供給の需要に対する比でもないことは明らかであり、また価格が需要に正比例し供給に反比例して変化もせねば、供給に正比例し需要に反比例して変化もしないことは明らかである。故に経済学の根本法則は、今日まで、単に証明せられなかったのみでなく、また正しく認識せられず、方式化せられなかったと、いっても過言ではない。なお附言しておきたいが、ここに問題となった法則またはこれを構成する二つの法則を証明するには、有効需要と有効供給とを定義し、有効需要と有効供給とが価格に対してもつ関係を研究し、稀少性の定義を下し、稀少性と価格との関係をも研究することが必要である。そしてこれらのことは、数学的用語と方法と原理に頼ることなくしては、為し得られるものではない。そこで結局、数学的形式は純粋経済学に対して単に可能な形式に止まるのではない、必要にして欠くべからざる形式である。なお、このことについては、ここまで私に追随してきた読者は少しの疑をも挟まないであろうと、私は思う。

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註一 相対的で客観的な交換価値と絶対的で主観的な稀少性との区別は、交換価値と使用価値との区別をそのまま正確に表わしている。
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    第十四章 等価値配分の定理。価値測定の手段と交換の仲介物とについて

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要目 一三九 交換者間の商品の分配の変化。所有量の等価値の条件。総存在量の同一の条件。一四〇 極大満足の条件に合致する部分的需要または供給。一四一 各交換者の需要量と供給量は常に等価値である。一四二 全ての商品の総需要と総供給は常に等しい。一四三 この場合所有量の等価値と総量の等量という二つの条件により市場価格は変化しない。一四四 二つの条件の必要。一四五 価値尺度財、単位、単位の変化。一四六 価格の合理的な表現、通俗の表現、通俗の表現の二重の誤謬。(1)単位の価値は固定かつ不変の価値ではない。(2)単位の価値なるものは存在しない。一四七 単位は一定量の尺度財の価値ではなく、この量そのものである。一四八 貨幣。一四九、一五〇 貨幣を媒介とする富の交換。
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 一三九 商品(A)、(B)、(C)、(D)……が(1)、(2)、(3)……の交換者によってそれぞれ qa,1[#「a,1」は下付き小文字], qb,1[#「b,1」は下付き小文字], qc,1[#「c,1」は下付き小文字], qd,1[#「d,1」は下付き小文字] …… qa,2[#「a,2」は下付き小文字], qb,2[#「b,2」は下付き小文字], qc,2[#「c,2」は下付き小文字], qd,2[#「d,2」は下付き小文字] …… qa,3[#「a,3」は下付き小文字], qb,3[#「b,3」は下付き小文字], qc,3[#「c,3」は下付き小文字], qd,3[#「d,3」は下付き小文字] ……ずつ所有せられているとすれば、これらの商品のそれぞれの合計は次の如くである。
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Qa[#「a」は下付き小文字]=qa,1[#「a,1」は下付き小文字]+qa,2[#「a,2」は下付き小文字]+qa,3[#「a,3」は下付き小文字]+ ……
Qb[#「b」は下付き小文字]=qb,1[#「b,1」は下付き小文字]+qb,2[#「b,2」は下付き小文字]+qb,3[#「b,3」は下付き小文字]+ ……
Qc[#「c」は下付き小文字]=qc,1[#「c,1」は下付き小文字]+qc,2[#「c,2」は下付き小文字]+qc,3[#「c,3」は下付き小文字]+ ……
Qd[#「d」は下付き小文字]=qd,1[#「d,1」は下付き小文字]+qd,2[#「d,2」は下付き
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