うとすれば、交換後の各人におけるこれら商品の各々の稀少性の算術平均である平均稀少性をとるより他はない。この概念はあたかも与えられた国における平均身長、平均寿命というようなもので、少しも異常なものではなく、ある場合にははなはだ有益なことさえある。これらの平均稀少性もまた交換価値に比例する。
 一〇二 経済学の理論家が、均衡価格の成立の法則を立てるに必要な時間の間、価格の要素を不変であると仮定するのは、理論家としての権利である。けれどもひとたびこの仕事が終れば、価格の要素は本質的にはなはだしく変化するものであることを想い起し、従って均衡価格の変化の法則を立てねばならぬことは、理論家の義務である。これはここになさねばならぬ残された問題である。かつ先の第一の仕事は直ちにこの第二の仕事に導く。けだし価格成立の要素はまた価格変動の要素でもあるからである。価格成立の要素は商品の利用と、これら商品の所有量とである。それ故にこれらはまた価格変動の第一原因であり、条件である。
 同一の市場で、(A)と(B)との交換が、まず、上述の市場価格すなわち(B)で表わした(A)の価格[#式(fig45210_007.png)入る]、(A)で表わした(B)の価格 μ で行われ、次に、別な価格すなわち(B)で表わした(A)の価格[#式(fig45210_067.png)入る]、(A)で表わした(B)の価格 μ' で行われたと想像すれば、この価格の変化は、次の四つの原因の一つまたは数箇、または全体から来ているといい得よう。
 一、(A)商品の利用の変化。
 二、(A)商品の所有者の一人または多数が所有するこの商品の量の変化。
 三、(B)商品の利用の変化。
 四、(B)商品の所有者の一人または多数が所有するこの商品の量の変化。
 これらの事情は絶対的であって、正確に決定し得られる。もちろん実際においてはこの決定は多少困難であるが、理論的には、これを不可能であるという理由はない。すべての交換者につき、その部分的需要曲線の要素の観点から調査を行えば、問題は直ちに解ける。そして価格変動の主原因のみが、観察者の注意を引く場合もある。例えば(B)商品のある著しい性質が発見せられると同時に、価格が μ から μ' に騰貴すると想像し、またはこの商品の存在量の一部がある偶然的事故によって破壊せられると同時に、価格が μ から μ' に変化すると想像すれば、私共はこれら二つの出来事の各々を突発的に来た価格騰貴の原因となさざるを得ないであろう。人々が欲しないで何事かをなすことはあり得ることであり、価格変動の主原因と条件の決定においてもしばしばかような場合がある。
 一〇三 均衡が成立し、各交換者は(B)で表わした(A)の市場価格[#式(fig45210_007.png)入る]、(A)で表わした(B)の市場価格 μ において、最大満足を与える所のそれぞれの量の(A)及び(B)を所有しているとする。この状態は稀少性の比と価格とが相等しいことによって存在するのであって、これらが相等しくないようになれば、存在しない。だから最大満足の状態がいかにして利用と所有量の変化によって妨げられるか、またこの妨害はいかなる結果を齎らすかを見よう。
 利用の変化は種々な有様で行われ得る。強度利用が増加し、外延利用が減少することもあり得れば、またその反対もあり得る。…この点について一般的命題を立てるには、多少の注意を要する。だから私共は、利用の増加または減少[#「利用の増加または減少」に傍点]という表現を、交換後における充された最後の欲望の強度すなわち稀少性の増減の結果を生ぜしめる欲望曲線の移動を意味せしめるためにのみ用いたいと思う。これだけを了知して、ある交換者達に対する(B)の利用の増加すなわち(B)の稀少性の増加を生ぜしめる(B)の欲望曲線の移動があったと想像する。このときには、もはやこれらの交換者にとり最大満足ではない。そしてこれらの人にとっては、互に逆な市場価格[#式(fig45210_007.png)入る]及び μ において、(A)を供給し、(B)を需要するのが利益である。先には価格[#式(fig45210_007.png)入る]及び μ において二商品の需要と供給とが等しかったのであるから、今はこれらの価格においては、(B)の需要は供給より大であり、(A)の供給は需要より大である。そこで pb[#「b」は下付き小文字] は騰貴し、pa[#「a」は下付き小文字] は下落する。だがこのときから、他の交換者にとっても最大満足ではあり得ない。これらの人々にとっては、(A)で表わした(B)の価格が μ より大であり、(B)で表わした(A)の価格が[#式(fig45210_007.png)入る]より小であるならば、(B)を供給して、(A)を需要するのが有利である。均衡が成立するのは、μ より大なる(B)の価格において、また[#式(fig45210_007.png)入る]より小なる(A)の価格において、二商品の需要と供給とが相等しいときである。よって先のある人々に対する(B)の利用の増加はその結果として(B)の価格を騰貴せしめる。
 (B)の利用の減少がその結果として(B)の価格を下落せしめるであろうことは明らかである。
 所有量の増加または減少がその結果として稀少性を減少しまたは増加するのを見るには、欲望曲線を見ればよい。そして稀少性が減少しまたは増加すれば、価格は下落しまたは騰貴することは既に述べた如くである。だから所有量の変化の影響は、利用の変化の影響に純粋にかつ単純に反対である。故に私共は、求める法則を次の言葉でいい表わすことが出来る。
 市場において二商品が均衡状態におかれ[#「市場において二商品が均衡状態におかれ」に傍点]、かつ他のすべての事情が同一に止まりながら[#「かつ他のすべての事情が同一に止まりながら」に傍点]、これら二商品の一方の商品の利用が所有者の一人または多数に対し増加しまたは減少すれば[#「これら二商品の一方の商品の利用が所有者の一人または多数に対し増加しまたは減少すれば」に傍点]、他方の商品の価値とこの商品の価値との比すなわちこの商品の価格は高騰しまたは下落する[#「他方の商品の価値とこの商品の価値との比すなわちこの商品の価格は高騰しまたは下落する」に傍点]。
 もしまたすべての事情が同一で[#「もしまたすべての事情が同一で」に傍点]、二商品の中の一商品の量が所有者の一人または多数において増加しまたは減少すれば、この商品の価格は下落しまたは高騰する[#「二商品の中の一商品の量が所有者の一人または多数において増加しまたは減少すれば、この商品の価格は下落しまたは高騰する」に傍点]。
 なお、他の問題に移るに先立って注意すべきことは、価格の変化はこれら価格の要素の変化を必然的に示しているけれども、これと反対に、価格に変化がないのは価格の要素に変化がないことを必然的に示すものではないということである。実際我々は、別に証明をすることなく、次の二つの命題を立てることが出来る。
 二商品が与えられ[#「二商品が与えられ」に傍点]、もしこれら二商品の中の一方の交換または所有者の一人または多数に対する利用及び量が変化しても[#「もしこれら二商品の中の一方の交換または所有者の一人または多数に対する利用及び量が変化しても」に傍点]、稀少性が変化せぬとすれば[#「稀少性が変化せぬとすれば」に傍点]、他の商品の価値とこの商品の価値との比すなわちこの商品の価格は変化しない[#「他の商品の価値とこの商品の価値との比すなわちこの商品の価格は変化しない」に傍点]。
 またもし[#「またもし」に傍点]、これら二商品の交換者または所有者の一人または多数に対するこれら二商品の利用と量とが変化しても[#「これら二商品の交換者または所有者の一人または多数に対するこれら二商品の利用と量とが変化しても」に傍点]、稀少性の比が変化しなければ、二商品の価格は変化しない[#「稀少性の比が変化しなければ、二商品の価格は変化しない」に傍点]。
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  第三編 多数の商品の間に行われる交換の理論
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    第十一章 多数の商品の間に行われる交換の問題。
         一般均衡の定理

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要目 一〇四 二商品間の交換の場合に関する記号の一般化。一〇五 三商品間の交換。一〇六 部分的需要の方程式と総需要の方程式。一〇七 交換の方程式。一〇八 m商品間の交換。需要方程式。一〇九 交換の方程式。一一〇 多数商品間の交換の問題は代数学的に提示されるが、幾何学的には提示されない。一一一 一般均衡の条件。一一二、一一三、一一四 [#式(fig45210_068.png)入る]及び α>1 の仮定。裁定(B、A、C)、(A、C、B)、(C、B、A)。pa,b[#「a,b」は下付き小文字] の下落。pb,a[#「b,a」は下付き小文字] の下落。pc,a[#「c,a」は下付き小文字] の騰貴。一一五 α>1、逆の操作と結果。一般均衡方程式。一一六 他のすべての商品を反対給付とする各商品の需要と供給の均等の方程式を、他の商品の各々を反対給付とする各商品の需要と供給の均等の方程式に置き換えること。
[#ここで字下げ終わり]

 一〇四 今、(A)、(B)二商品の間の交換の研究から、(A)、(B)、(C)、(D)……等の多数の商品の間の交換の研究に移ろう。この研究のためには、まず、交換者が一商品の所有者に過ぎない場合を考え、次にこの場合の方程式を適当に一般化すればよい。
 今後、(B)をもってする(A)の有効需要を Da,b[#「a,b」は下付き小文字] と呼び、(A)をもってする(B)の有効需要を Db,a[#「b,a」は下付き小文字] と呼び、(B)で表わした(A)の価格を pa,b[#「a,b」は下付き小文字][#「a,b」は底本では「b,a」] と呼び、また(A)で表わした(B)の価格を pb,a[#「b,a」は下付き小文字] と呼ぶこととする。しからば四個の未知数 Da,b[#「a,b」は下付き小文字], Db,a[#「b,a」は下付き小文字], pa,b[#「a,b」は下付き小文字][#「a,b」は底本では「ab」], pb,a[#「b,a」は下付き小文字] の間に、有効需要の二個の方程式
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Da,b[#「a,b」は下付き小文字]=Fa,b[#「a,b」は下付き小文字](pa,b[#「a,b」は下付き小文字])
Db,a[#「b,a」は下付き小文字]=Fb,a[#「b,a」は下付き小文字](pb,a[#「b,a」は下付き小文字])
[#ここで字下げ終わり]
と、有効需要と有効供給の均等を示す二つの方程式
[#ここから4字下げ]
Db,a[#「b,a」は下付き小文字]=Da,b[#「a,b」は下付き小文字]pa,b[#「a,b」は下付き小文字]
Da,b[#「a,b」は下付き小文字]=Db,a[#「b,a」は下付き小文字]pb,a[#「b,a」は下付き小文字]
[#ここで字下げ終わり]
とがあり得るわけである。そして前の二式は、幾何学的には、二つの曲線によって示され、後の二式は、これら二つの曲線のうちに二つの矩形を画き、その底辺を高さの比の逆比に等しからしめ、または面積の比に等しからしめるようにすることによって示される(第五七節)。
 一〇五 さてこれら二商品(A)、(B)の場合から、まず(A)、(B)、(C)三商品の場合に転じよう。このために私は、一方から商品(A)を携え、その一部を譲渡して(B)商品を得ようとし、また他の一部を譲渡して(C)商品を得ようとする人々が到着し、他方から(B)商品を所有し、その一部を譲渡して(A)を得ようとし、また他の一部を譲渡して(C)商品を得ようとしている人々が来り、更に他の一方から(C)商品を所有し、その一部を譲渡して(A)商品を
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