に、存在量と交換量とが相等しいのは、二商品の有効需要と有効供給とが相等しいことを表わしている。
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    第八章 利用曲線または欲望曲線。商品の利用の最大の法則

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要目 七一 部分的需要曲線の出発点を決定する事情。外延利用。七二 傾斜と到達点を決定する事情。強度利用。七三 所有量の影響。七四 利用または欲望の測定単位の仮説。利用曲線または欲望曲線の構成。七五 それらは有効利用及び稀少性を所有量の函数として表示した曲線である。七六 交換は欲望の最大満足の見地から行われる。七七 Bの量 Ob[#「b」は下付き小文字] とAの量 da[#「a」は下付き小文字] との交換は、交換後においてAの稀少性とBの稀少性との比が価格 pa[#「a」は下付き小文字] に等しいときに有利である。七八、七九 この交換は Ob[#「b」は下付き小文字] 及び da[#「a」は下付き小文字] より小なるかまたは大なる他のすべての二商品の交換よりも有利である。八〇 それ故稀少性の比が価格に等しいときに、欲望の最大満足が生ずる。八一 最大満足の条件から導き出された需要曲線の方程式。八二 無限小による解法。八三、八四 欲望曲線が不連続の場合。
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 七一 ここまでは、交換の事実の性質について研究をしてきたが、この研究により、またこの事実の原因の研究も可能となる。実際もし価格が需要の曲線から数学的に出てくるとすれば、需要曲線の成立及び変化の第一原因と条件とは、また価格の成立及び変化の第一原因と条件であるべきである。
 故に今、部分的需要曲線例えば(B)の所有者(1)の(A)の対するせり上げの傾向を幾何学的に示す所の ad,1[#「d,1」は下付き小文字]ap,1[#「p,1」は下付き小文字](第一図)(第五一節)に立返り、まずこの曲線が需要の軸を離れてゆく点 ad,1[#「d,1」は下付き小文字] の位置を決定する事情を考察してみる。長さ Oad,1[#「d,1」は下付き小文字] は(B)の所有者(1)が(A)を、この価格が零であるときに、有効に需要する量すなわちこの商品が無償で与えられるときにこの人によって消費せられる量を示す。この量は一般に何によって決定せられるか。それは、商品の利用の一種であって私がここで外延利用[#「外延利用」に傍点](〔utilite' d'extension〕 または 〔utilite' extensive〕)と呼ぶ所のものによって決定せられる。私がここで外延利用という名辞を用いたのは、この利用を有する種類の冨によって充足せられる欲望の普遍性と数量とが、この欲望を感ずる人々の多少及び感ずる強度の大小によって決定せられるからである。一言でいえば、獲得のために何らの犠牲を提供する必要が無いとすれば、その場合にこの商品が多量に消費せられるかまたは少量だけしか消費せられないかが、外延利用である。ところで(A)の外延利用は(A)の需要曲線にしか影響を与えないという意味で、また同様に(B)の外延利用は(B)の需要曲線にしか影響を与えないという意味で、この第一の事情は簡単であり、絶対的である。かつ外延利用は価格零において需要せられる量であるから計量出来る大いさであるという意味において、この第一の事情は計量し得られるものである。
 七二 だが外延利用は利用のすべてではない。それはこの一因子に過ぎない。このほかに、今曲線 ad,1[#「d,1」は下付き小文字]ap,1[#「p,1」は下付き小文字] の傾斜を決定する事情と、この曲線が価格の軸に達する点 ap,1[#「p,1」は下付き小文字] の位置を決定する事情とを研究すれば、直ちに明らかになってくる他の利用がある。ところで曲線の傾斜は二つの量すなわち価格の増大とこの増大によって惹き起される需要の減少との比に他ならない。この比は一般に何に依存するか。それは私が強度利用[#「強度利用」に傍点](〔utilite' d'intensite'〕 または 〔utilite' intensive〕)と名附ける利用の一種に依存するのである。この利用を強度利用と名附ける理由は、この利用を有する富によって満足される欲望が、価格が高いのにもかかわらず、多くの人々の間に存するかまたは少数の人々の間に存するか、また各人においては強く存在するかまたは弱く存在するかによって、この利用が強いものであるかまたは弱いものであるかが明らかになるからである。一言でいえば、この商品を獲得するために払う犠牲の程度が、商品の消費量の大小に影響するのは、強度利用の結果である。この事情は、外延利用と異り、(A)の需要曲線の傾斜が、(B)の需要曲線と同じく、(A)の強度利用及び(B)の強度利用の双方によって決定せられるという意味において複雑であり、相対的である。だから需要曲線の傾斜を、需要の減少の価格の増大に対する比の極限[#「需要の減少の価格の増大に対する比の極限」に傍点]〔訳者註、需要を価格につき微分した微分係数〕――これは数学的に決定することの出来る事情であるが――と定義すれば、それは二商品の利用の強度の複雑な関係に他ならないということになる。
 七三 なお(A)の需要曲線 ad,1[#「d,1」は下付き小文字]ap,1[#「p,1」は下付き小文字] の傾斜に影響を有する他の事情がある。それは(B)商品の所有者(1)の手中に存在する(B)の量 qb[#「b」は下付き小文字] である。一般に部分的需要の曲線が部分的存在量の双曲線より小さいのは、総需要の曲線が全部量の双曲線より小さい如くである。故に部分量の双曲線が原点に近づきつつ、または原点を離れつつ変化するかに従って、部分的需要の曲線もそれと同様に変化し、あたかも強度利用の変化の結果として現われるように見える。これら二つの場合におけるこの必然的関係を、図は忠実に示している。
 七四 この分析は不完全でありながら、一見これ以上にこの分析を一層深く押し進めることは不可能のように見える。なぜなら絶対的強度利用は、外延利用及び所有量と異り、時間にもまた空間にも、直接のかつ計量し得る関係を有しないため、測定し得られないという事実があるからである。けれどもこの困難は越え得ないものではない。今私は、右のような関係が存在すると仮定し、外延利用、強度利用、及び所有量がそれぞれ価格に及ぼす影響を正確に数学的に説明しようと思う。
[#図(fig45210_035.png)入る]
 故に私は、欲望の強度すなわち強度利用を計量し得る所の、かつ同種類の富のすべての単位にのみならずあらゆる種類の富のすべての単位に共通な尺度の存在を仮定する。今縦軸 Oq 横軸 Or を二つの坐標軸であるとする(第三図)。縦軸 Oq 上に、原点 O から順次に長さ Oq', q'q'', q''q''', ……をとり、これらをもって、(B)の所有者(1)が自ら現にこれらを所有するとすれば、ある時間のうちに順次に消費していくであろう所の単位数を表わさしめる。かつ外延利用及び強度利用は、この時間中、各交換者に対し一定である[#「一定である」に傍点]と仮定する。これによって、利用という表現のうちに、私は時間を暗黙のうちにだけ示しておくに止めることが出来る。もし反対に、利用が時間の函数として変化するものであると仮定すると、問題の中に時間が明示的に現われてこなければならぬ。この場合には経済静態を離れて、動態(dynamique)に入ることになる。
 ところでこれら順次の単位は、所有者(1)に対し、充足要求の最も強い欲望を充すべき第一の単位から、消費すれば飽満を感ぜしめるような最終の単位まで、次第に強さを減じていく強度利用をもつものであって、私共はこの減少を数学で表現しなければならぬ。もし商品(B)が、例えば家具、衣服のように、自然に単位ずつ消費せられるとすれば、横軸 Or の上、及び点 q', q'' ……等を通って横軸に平行な線の上に、原点及びこれらの q', q'' から長さ Oβr,1[#「r,1」は下付き小文字], q'r'', q''r''' をとり、これらでそれぞれ、これらが表わす単位の強度利用を表わさしめる。また矩形 Oq'R'βr,1[#「r,1」は下付き小文字], q'q''R''r'', q''q'''R'''r''' を作る。かようにして、曲線 βr,1[#「r,1」は下付き小文字]R'r''R''r'''R''' を得る。この曲線は連続ではない。反対にもし(B)が、例えば食料品のように、微分小量ずつ消費し得られるとすると、利用の強度は、一単位から次の単位へと、減少するのみでなく、各単位の第一部分から最後の部分まで順次に減少し、不連続曲線 βr,1[#「r,1」は下付き小文字]R'r''R''r'''R''' は連続曲線 βr,1[#「r,1」は下付き小文字]r''r''' … βq,1[#「q,1」は下付き小文字] に変化する。同様にして、(A)について曲線 α[#「α」は底本では「a」]r,1[#「r,1」は下付き小文字]α[#「α」は底本では「a」]q,1[#「q,1」は下付き小文字] を得ることが出来る。かつ曲線が不連続な場合と同じく、連続な場合にも、利用の強度は第一単位またはこの単位の第一部分の強度から、消費せられる最後の単位またはこの単位の最後の部分の強度まで、逓減する事実が認められる。
 長さ Oβq,1[#「q,1」は下付き小文字], Oαq,1[#「q,1」は下付き小文字] は、所有者(1)に対し商品(B)及び(A)がもつ外延利用すなわち所有者(1)が商品(B)及び(A)についてもつ欲望の外延を示す。面積 Oβq,1[#「q,1」は下付き小文字]βr,1[#「r,1」は下付き小文字],Oαq,1[#「q,1」は下付き小文字]αr,1[#「r,1」は下付き小文字] は、商品(B)及び(A)が同じ所有者(1)に対してもつ可能的利用[#「可能的利用」に傍点](〔utilite's virtuelles〕)すなわち所有者(1)が商品(B)及び(A)についてもつ欲望の外延及び強度の合計を示す。故に曲線 αr,1[#「r,1」は下付き小文字]αq,1[#「q,1」は下付き小文字],βr,1[#「r,1」は下付き小文字]βq,1[#「q,1」は下付き小文字] は、所有者(1)につき、(B)及び(A)の利用曲線[#「利用曲線」に傍点](〔courbes d'utilite's〕)または欲望曲線[#「欲望曲線」に傍点](courbes de besoins)を示す。だがそれだけではない。これらの曲線はまた二面の性質をもっている。
 七五 ある商品の消費せられた量により、外延においてまた強度において、充足せられた欲望の合計を有効利用[#「有効利用」に傍点](〔utilite' effective〕)と呼べば、曲線 βr,1[#「r,1」は下付き小文字]βq,1[#「q,1」は下付き小文字] は、(B)の消費量の函数としてのこの人に対する有効利用の曲線を示す。例えば長さ Oqb[#「b」は下付き小文字] によって表わされる消費量 qb[#「b」は下付き小文字] のこの人に対する有効利用は面積 Oqb[#「b」は下付き小文字]ρβr,1[#「r,1」は下付き小文字] によって表わされる。そして商品の消費せられた量によって充される最後の欲望の強度を稀少性[#「稀少性」に傍点](〔rarete'〕)と呼べば、曲線 βr,1[#「r,1」は下付き小文字]βq,1[#「q,1」は下付き小文字] は(B)の消費量の函数としてのこの所有者に対する稀少性の曲線[#「稀少性の曲線」に傍点](〔courbe de rarete'〕)となるであろう。だから長さ Oqb[#「b」は下付き小文字] によって表わされる消費量 qb[#「b」は下付き小文字] の稀少性は、長さ
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qb[#「b」は下付き小文字]ρ=Oρb[#「b」は下付き小文字]

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