た。
「何と大きな樫の木だなア。」と呆《あき》れて見てゐると、樫の枝がザワ/\と動くぢやありませんか。与兵衛はギクリ! として釣竿《つりざを》を杖《つゑ》についたまゝ立つて居ると、猿が何疋も枝から枝へ跳びあるいてゐるのです。
「おや! また猿が居るナ?」
与兵衛はブル/\顫《ふる》へながら見て居ると、川の方に差し出た細い枝の上に大きな親猿が一疋、何を思つたかスル/\と伝つて来て、軽業師のやうにぶら下りました。枝が弓のやうに輪を画いて円く曲つたと思ふと、其枝はポツキと折れて大きな親猿は小枝を握つたまゝ二十間もあらうと思はれる高い所から、ドブン! と淵の中へ真逆様《まつさかさま》に落ちたのでした。
「あツ!」と叫んで与兵衛は吾知らず川原を上の方へ駈《か》けて行きました。行つて見ると深い/\淵の真中に落込んだ親猿は、樫の枝を握つたまゝ首だけやつと水の上に出して浮いてゐました。木の上ではあれだけ敏捷《びんせふ》な猿でも水の中では一尺も泳ぐ事が出来ないのです、猿の一番禁物は水なのです。
「よし/\、今、俺《おれ》が助けてやる! さアこの釣竿に縋《すが》れ!」
与兵衛はかう言つて釣竿を差出して
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