、すぐチヨン[#「チヨン」に傍点]は与兵衛の膝《ひざ》の上に入つて、そしてお膳の上にあるお芋の煮たのやら、お豆の煮たのを、お先へ失敬してムシヤ/\と食べるのでした。けれども与兵衛は、ちつともそれを叱《しか》らずにチヨン[#「チヨン」に傍点]よチヨン[#「チヨン」に傍点]よと言つて可愛がつてゐました。
或日《あるひ》の事、与兵衛は川へお魚を釣《つ》りに行つたが、どうしたものかその日は不思議にもたいてい一つの淵《ふち》で大きな※[#「魚+完」、第4水準2−93−48]《あめのうを》が必ず一つづつ釣れるので、もう一つ、もう一つと思つて、つい川を上へ/\と上つて行きました。そしてふと気付いてみると、十四五間上手に大きな樫《かし》の木のあるのが眼に止りました。
「あ、あの樫の木だつたつけ、チヨン[#「チヨン」に傍点]の母猿を射つたのは?」
与兵衛はかう言つた後で、思はずも南無阿弥陀仏《なむあみだぶつ》々々々々々々と言ひました。そして川原に立竦《たちすく》んだまゝ、ぢつとその樫の木を眺《なが》めて居ました。樫の枝は大きな/\傘《かさ》のやうに広がつてその片一方がずつと淵の上の所まで伸びて居まし
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