つたか、あたらなかつたかが、すぐに知られたからでありました。
 与兵衛はすぐ新しく弾丸《たま》を込めて樹《き》の上を見ました。もう其時は皆な五疋十疋の猿が幹を伝つて一生懸命に跳び降りて、いづくとも知れず逃げてしまつた後でした。
「はてな、今の弾丸《たま》は確かにあたつた筈《はず》だが……」と独語《ひとりごと》を言ひながら与兵衛は樫の大木に近づきました。すると大きな猿が一疋、右の手で技を掴《つか》んで、ぶらりとぶら下つてゐました。与兵衛はすぐ鉄砲に弾丸《たま》を込めてその猿の右の手をうつたのでした。所が猿は、ばたりと下へ落ちて来ましたが、今度は左の手でまた別の枝を握つて、ぶらりとぶら下りました。
 与兵衛は少し気味悪く思ひましたが、勇気を出して三発目に頭の後《うしろ》の方を射ち抜いたので、ドスン! と音がして、与兵衛の立つてゐた二間ばかり上の方へ、大きな親猿が血に塗《まみ》れて落ちて来たのでした。
 与兵衛は早速|駈《か》け上《あが》つて行つてその親猿の手をソツと掴んで下へ三尺ばかり引摺《ひきず》りますと、山の上の方から土瓶《どびん》のまはり程の大きな石が、ゴロ/\と転つて来ました。
 
前へ 次へ
全12ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
沖野 岩三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング