りて行かれる。そして俺はあの筏に乗つて家《うち》へ帰らう。さうぢや、それが宜《い》い。」
 与兵衛はさう考へながら、山の頂から真直《まつすぐ》に川の方へ、樹《き》の枝に攫《つかま》りながら、蔓《つる》に縋《すが》りながら、大急ぎに急いで降りて行きました。そして川岸から三十間ばかり上の方まで来た時、右手の岩の上の大きな樫《かし》の枝が、ザワ/\と動くのが逸早《いちはや》く与兵衛の眼《め》に映りました。
 与兵衛は鉄砲を取直して、そつと木の枝の間から覗《のぞ》いて見ますとその樫の木の上に大きな猿《さる》が二疋、頻《しき》りに枝を揺《ゆす》ぶりながら樫の実を取つて居るのでした。
 それを見た与兵衛は筏の事も何も打忘れてしまつて、忍び足にその樫の木に近寄つて行きました。所が樫の木の枝には二疋の大猿の外に小い可愛い猿が、五疋七疋十疋、ピヨン/\と枝から枝へ、跳びあるいて遊んで居るのです。で、与兵衛は其中の一番大きい親猿を射《う》つてやらうと思つて、狙《ねら》ひを定めて、ドーン! と一発射ちました。
「しめた!」と与兵衛は叫びました。それは与兵衛の長い間の経験から、鉄砲の音でその弾丸《たま》があた
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