しのことで、なぐりころされるところを、おまはりさんに、助けてもらつたのでした。
「きつと、あのくぢらとりの男だ。おれが工場をやめて、国へかへるときいて、自てん車で、おつかけて来たに、ちがひない。今となつては、もう、しかたがない。なぐられて、木のみきに、しばりつけられるか、それとも、ぴすとるで、うたれるか。」
 そんなことを、思つてゐるうちに、西洋人は、ちかよつてきました。源八さんは、つゑをかたくにぎつて、立ちとまりました。
「今日は。」と、西洋人は、いひました。源八さんも、「今日は。」といつて、西洋人の方を、ぢろりと見ました。
 そのうちに、西洋人は、さつさと、源八さんの、前をとほつて、坂をのぼりました。
「あの男では、なかつたか。」
 源八さんは、安心しました。そして、しばらく、あるいてゐると、向ふから、一人の魚屋さんが、来ました。
 魚屋さんは、源八さんの、すがたを見て、ぴたりと、立ちとまりました。
「あなたは、ごびやうきですか。」
 魚屋さんは、問ひました。
「はい、わたしは、かつけで、困つてゐます。」
「さうですか、それは、お気のどくですなあ。」
 言ひながら、魚屋さんは、かつ
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