時、けんくわをするので、みんなから、にくまれてゐました。
 そのうちに、源八さんは、ひどい病気にかかりまして、どうしても、はたらけないので、国へかへらなければなりません。けれども、お船にのるだけの、お金がありませんから、はれた足を、ひきずりながら、山みちを、あるいて来たのでした。
 みなとのやどにとまつて、やどちんを、はらひますと、もう、さいふの中に二銭どうくわ一つしかありませんでした。けれども、しかたがないので、つゑにすがつて、上り下り三十二きろの、けはしい、たうげを、こしにかかりました。
 さびしい山みちですから、朝からひるすぎまで、たれ一人にも、あひません、もうおなかがすいて、足がひけなくなつた時、うしろから、人のくる、足音がしますので、ふりかへつてみますと、一人の、せの高い、西洋人が自てん車をおして、上つてくるのです。
 源八さんは、町の工場にゐる時、酒によつぱらつて、停車場のひろばで、西洋人を、なぐりつけたことが、ありました。その西洋人は、外国からきた、くぢらとりの、れふしで、めつぱふ力のつよい、けんくわずきの男でした。源八さんは、それと知らずに、なぐりつけたのですから、今少
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