さやうなら。」
西洋人は、五十銭銀貨を、藤六さんの、手のひらに、のせておいて、さつさと、坂をおりてしまつたのでした。
藤六さんは、西洋人の見えなくなつた時、につこり笑ひました。
「うまいうまい。五十銭ぎんくわが、ふいに、天からふつてきたやうなものだ。これは、おれが毎日毎日、正ぢきにして、いつしよけんめいに、はたらいてゐるから、神さまが、あんな西洋人に、ばけてきて、おれにこの五十銭ぎんくわを下すつたんだ。ありがたい、これで、明日の朝は、一円五十銭のお魚が買へる。さうすると、七十五銭はまうかる。ありがたい、ありがたい。」
藤六さんは、その五十銭ぎんくわを、さいふの中に入れて、坂をのぼりました。
三
源八《げんぱち》さんは、くわんづめ会社の、しよく工でした。手早くつて、よくはたらくので、毎日、三円から四円の、お金をもらひます。けれども、源八さんには、二つのわるいくせがあります。それはさけをのむことと、さけをのむと、よつぱらつて、けんくわを、することとです。
町の会社で、三年ほど、はたらいてゐましたが、まうけたお金は、すつかりおさけを買つて、のんでしまひました。その上、時
前へ
次へ
全16ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
沖野 岩三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング