かづらをきつて、それを、わにして木のえだに、ひつかけました。そして、そのわに、くびをひつかけて、ぶら下らうとしましたが、藤六さんは、またかんがへました。
「まてよ。こんなかづらに、くびをひつかけたなら、きつと、くびのかはが、すりむける。さうすると、くすりを、つけなければならない。くすりをつけると、くすりだいがいるから、びんばふが、いつそう、びんばふになる。」
 そこで、藤六さんは藤かづらのわを、木のえだに、ひつかけておいたまま、おうちにかへりました。
 そのあくる日でした。藤六さんは、いつものやうに、お魚をうりに行つて、もう、半分ほど売つたころでした。これから、山の向ふまで、こえて行かうと思つて、かごをかついで、坂をのぼつてゐますと、上から、一人の西洋人がおりて来ます。ごとごとと、自てん車をおして、石ころみちを、あるいてゐます。
 えいごを知らない藤六さんは、何といつていいか、わかりませんから、だまつて、みちをよけてゐますと、西洋人の方から、こゑをかけました。
「魚屋さん、すみませんが、わたしのあとへ、一人のびやう人が来ますから、この五十銭を、上げて下さい。わたし、少し急ぎますから……
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