いでゐたかごを、みちの上に、おろしました。そして、さいふから、五十銭ぎんくわを、とり出して、
「これをなあ、西洋人が、あなたに上げておくれつて、おれに、たのんで行つたよ。あなたが、なんぎして、あるいてゐるのを見て、気のどくに、なつたのだらう。さあ、五十銭、もらつておきなさるがよい。」と、いひました。
 源八さんは、びつくりしました。なぐられるか、ころされるか、どつちかだと思つてゐた、西洋人から、五十銭ぎんくわを、もらつたのですから、びつくりするのも、たうぜんです。のみならず、それをあづかつた、魚屋さんが、それを、だまつて、自分のものにしたつて、たれも知らないはずだのに、正直に、自分にそれを、わたしてくれたことが、どうも、ふしぎでたまりませんでした。
 もう二銭どうくわ一つしか、もつてゐないんですから、その五十銭ぎんくわを、おしいただいて、さいふに入れました。そして、魚屋さんに、別れた時、源八さんは、思ひました。
「あれは、人間ぢやあない。神さまだ。おれが、いつも、さけをのんだり、けんくわをしたりしたあげく、こんな、びやうきにかかつて、困つてゐるので、これから、心をあらためるやうにといつ
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