、いつて、さつさと坂を下りました。


    二
 魚屋の藤六《とうろく》さんは、びんばふでした。毎日、朝はやく、問屋《とひや》へ行つて、お魚を一円だけ買ひ出します。そして、それを売つて、五十銭づつ、まうけるのです。もとでが一円五十銭あれば、七十五銭まうかるんだが、どんなにしても、一円五十銭のお金を、のこすことはできません。のみならず、うつかりすると、もとでの一円が、八十銭九十銭になりさうです。
 藤六さんは、ひくわんしてしまひました。朝から晩まで、山をこえ谷をわたつて、山の中の一けん屋を、あちらこちらと、まはりまはつて、「ひものはいりませんか、ひものはいりませんか。」と、言つて、うりあるいて、一円五十銭の売上げを、もつてかへることは、なみ大ていの、くらうではありません。こんなしやうばいを、何十年してゐたつて、びんばふを卒業するといふ、見こみがないので、思ひ切つて、しんでやらうと、思つたことがありました。
 藤六さんは、ある日、うちの屋根うらに、ほそびきをかけて、くびをくくつて、しなうとしました。高いふみ次《つぎ》を、持つてきて、ほそびきを、やねうらの、よこ木にかけました。しかし、か
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