すと、本当に賢さうな孔子様の絵が出来てゐました。
翌《あく》る朝、画家さんは尋ねました。
「孔子様の傍《そば》に何を描くのですか。」
すると愚助は答へました。
「孔子様の隣りに、老子《らうし》様を描くのです。老子さまは、おつ母《か》さんのお腹《なか》に、七十年居たのださうな。だから産れた時、もう髪が真白《まつしろ》で、歯が抜けてゐたのだつて。」
「誰《だれ》だつて産れた時は、歯が無いんですよ。」
画家さんは笑ひました。
「何でもいいから、其の老子様を描くのです。老子様は孔子様も感心したほど、偉い人ですよ。」
愚助は学校へ行きました。そして教はつた事をみんな忘れて帰つて来ますと、立派な老子様の絵が出来てゐました。やつぱり右の手を握つて、小指だけ撥ねてゐました。
翌る朝、愚助は申しました。
「今日はね、老子様の傍へ、悉達太子《しつたたいし》を描くんですよ。悉達太子といふのは、中天竺《ちゆうてんぢく》マカダ国、浄飯王《じやうばんわう》のお子様で、カビラ城にゐなすつたのだが、或時《あるとき》城の外を通る老人を見て、人間はなぜあんなに、年をとつて、病気になつて、そして死ぬのかといふ事を
前へ
次へ
全15ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
沖野 岩三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング