考へたのです。(生れて老人になつて病気になつて死ぬ)どうしても其のわけが解《わか》らない、人間が老人《としより》にもならず、病人にもならず、死なない方法はないかと考へたが、わからないので、たうとう太子様はお城をぬけ出して、雪山《せつさん》といふ所へ行つて、アララ、カララといふ仙人について、何年も何年も修行した末、やつと、わけが解つたのです。」
「どんなに解つたのですか。」
 画家さんは眼を円くしてききました。自分も年をとらないで、病気をしないで、千年も万年も生きてゐようと思つたのでせう。
「生れなかつたら……生れなかつたらいいんですよ。」
「生れなかつたら。」
「生れなかつたら、年もとらず、病気にもかからない。死にもしない。」
「何だい、そんな事……」
「だつて、それだけの事が、人間にはなかなか、わからないんだよ。それが本当に解つたので、悉達太子様は、今にお釈迦《しやか》様と云《い》つて尊敬されるのです。」
「ええ、それがお釈迦様ですか。」
「うん、さうだよ。其のお釈迦様が、かうして小指をはねてゐらつしやるんだよ。」
 愚助はそれだけ言ひ置いて学校へ行きました。今日は先生から呶鳴《どな
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