達は念を押してききました。すると愚助は、
「大丈夫です。僕《ぼく》の頭は、一日後れの写真頭ですから。」と、申しました。

 画家《ゑかき》さんが参りました。そして問ひました。
「愚助さん、どんな絵を描くのですか。」
「明日《あした》の朝まで待つて下さい。今晩見て置きますから。」
 愚助は答へました。そして其の晩蒲団の中で、眼を閉ぢて考へ出してみた通り、翌朝画家さんに話しました。
「掛物の真中に、大きな壺《つぼ》があるんですよ。壺の正面には、こんな風に白い雲の飛んでゐる絵があるんです。」
 愚助は指尖《ゆびさき》で、雲の恰好《かつかう》を教へて置いて学校へ行きました。そして一日何にも覚えないで帰つて来ますと、画家さんは大きな紙に、立派な壺の絵を描いてありました。飛んでゐる雲も、愚助の言つた通りの雲です。
「愚助さん、この壺の側《そば》に何があるのですか。」と、画家さんはききました。
「待つて下さい、今晩見て置きます。」と、愚助は申しました。画家さんは、愚助が画手本でも内証で見るのか知らと思ひました。
 翌《あく》る朝になると、愚助は、
「画家さん、壺の右の端にね、孔子《こうし》様が立つて
前へ 次へ
全15ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
沖野 岩三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング