た。そこで、和尚様はお寺の書院の床の間に懸《かか》つてゐる、大きな掛軸を外して、それを京都へ売りに行きました。和尚様は其の掛軸を売つたお金で、お寺を改築しようと思つたらしい。
ところが、和尚様は京都へ行つたまま、待つても待つても帰つて来ません。村の人達は心配して、京都まで和尚様を尋ねに行きましたが、京都は広い広い町ですから、和尚様はどこに居らつしやるか、さつぱりわかりません。
村の人達《ひとたち》は、もう和尚様は、京都の町で電車か自動車かに轢《ひ》かれて、死んでしまつたものだと思ひました。
「死んだ和尚様は帰つて来ないだらうが、せめて、あの大きな掛軸だけは取返したいものだ。」
村の人達は、時時そんな事を申しました。けれども其の掛軸は、どこの誰《たれ》がもつてゐるか知れないのです。
さうしてゐる所へ、一人の画家《ゑかき》さんが参りました。この画家さんは妙な画家で、何一つ自分で考へ出しては描《か》けないのです。その代り、猫《ねこ》を描けとか虎《とら》を描けとか、こちらから命令すれば、実に立派なものを描きます。
村の人達は相談しました。
「あの画家さんに頼んで、和尚様が、どこかへ
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