くなつて笑ひました。
 けれども、晩になつて、お蒲団の中に入つてゐますと、先生の声が聞えます。生徒が見えて来ます。そして生徒の中の愚助は、せつせと勉強してゐます。
 翌る朝、和尚様が復習《おさらひ》をしますと、愚助はすらすらと、みんな答へができます。
 和尚様は考へてゐましたが、
「愚助、おまへの頭は一日|後《おく》れの頭だよ。昨日習つた事を今日覚えるんだ。他の子供は昨日習つた事を昨日覚えて、今日は忘れてゐるんだ。所が、おまへは昨日習つた事を今日覚えて、いつまでも忘れないんだ。おまへは決して馬鹿でも何でもない。成長したなち、きつと、えらい人間になるぞ。」と、言ひました。けれども愚助は、
「おれの頭は写真頭らしい。昼間習つた事を、其の晩現像して、翌る朝焼きつけるのではないか知ら。」といふやうな事を考へてゐました。
 それから、毎晩毎晩愚助は、お蒲団の中に入るのが楽みになりました。

 お寺は軒が傾いて、柱が朽《く》ちてゐます。和尚様は村の人達《ひとたち》に、お寺を改築するやうにと、何度も何度も、お話いたしましたが、村の人達は、お金のいる事は御免だと言つて、和尚様の言ふ事を聞入れませんでし
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