の人達は、此の掛軸の説明を愚助に願ひますと、愚助は、
「宜しい、明日の朝までに見て置くから、明日の朝、お寺の鐘が鳴つたら、村の人達は、男も女も子供も、一人残らず集つていらつしやい。」と、申しました。
 村の人達は、愚助が、此の掛軸の説明をした書物を見るのだと思ひました。しかし愚助は、蒲団の中で眼を閉ぢて、和尚に教へられた説明を考へて見たのでした。
 鐘が鳴りました。村中の人は、一人のこらず集つて来て、本堂の縁側まで、ぎつしり一杯に坐りました。
 愚助は石油箱を持つて来て、其の上に登りました。そして先《ま》づ孔子と老子と釈迦とキリストの履歴を詳しく話しました。
 それは和尚に教はつた通り、一言も間違はないで話したのです。
 村の人達はみんな驚きました。
 それから愚助は、一段と声を張り上げて、
「皆さん、この絵は、四|聖吸醋之図《せいきふさくのづ》と申しまして、四人の聖人が、お醋《す》を嘗《な》めてゐるのです。」と、言つた時、多勢は一度にどつと笑ひました。
「お待ちなさい。笑ひ話ではありません。右の端の孔子様は、此の壺の中のお醋を嘗めてみて、これは酸つぱいと申しました。すると其の隣りの老
前へ 次へ
全15ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
沖野 岩三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング